岩山に架かる大屋根の家

作品紹介

「岩山に架かる大屋根の家」は、懐かしく・誇らしく・新しい家を目指し、生まれました。
この住宅は、岡山県都窪郡早島町に建っています。早島町は、宇喜多堤に初まった干拓により形作られた町で、い草・畳表の生産や金比羅往来で栄え、その頃の古い街並みが残る一方、現在は岡山市と倉敷市のベッドタウンとしての性格が強くなっている町です。
敷地が早島町の「景観形成重点地区」に位置するので、古い街並みと調和するよう、軒を低く押さえた屋根、土壁に設けた軽やかな開口部、外部仕上げに自然素材の多用等、「これまでもずっとこの場所に建っていたのでは?」と思わせる佇まいとなりました。

この住宅は、早島町専門の工務店の社長の自宅兼モデルハウスとして、建てられました。社長の父祖は早島町で板金業を営み、大工となっていた社長が、工務店として引き継ぎました。現在は自社大工により、木工事と板金工事を共に行う会社として、営業しています。
二代続いた板金屋の流れを汲む工務店として、「父祖に誇れる板金の大屋根の家を!」とほぼ唯一のご要望をいただき、敷地の間口一杯の大屋根を、繊細な板金の技で葺き上げる家としました。緑の野に開いた野点傘(大きな和傘)を想起させる佇まいとなりました。

この住宅は、工務店のモデルハウスでもあるので、時が経っても陳腐化しない魅力ある佇まいを目指しました。
建て込んだ街中に立地していますが、敷地は十分に広いので、庭も主役に据えた家づくりを、模索しました。「住宅と庭との新しい関係」です。住宅と庭が、対峙するのでなく、主従でない関係。住宅に庭を、無理に纏うのでなく、無理に包含するのでない関係。住宅と庭が、それぞれの良さをありのままに、そして互いを引き立て響き合う関係。住宅と庭が、それぞれがそれぞれの一部を包含する関係。
この新しい関係で、庭の一部である岩山を独立基礎として、住宅の大屋根を架けることにより、「住宅の精緻な技」 と 「庭の生命感」 が響き合う佇まいとなりました。干拓により陸地に残された小島の痕跡のような岩山に、大らかに架かる大屋根の家は、未来永劫この地を拠点とする決意を現しているかのようです。

 

 

JIA中国建築大賞2023 住宅部門 優秀賞

有限会社アイ・ティー・エム コラボ作品

 

作品データ

所在地: 岡山県 都窪郡早島町

延床面積: 140.27㎡

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