富良野の異形屋根

作品紹介

北海道民家のマニエリスム

1974年に建てられ、2度の増改築を経て現在の形となった住宅を二世帯にリノベーションする計画である。異形屋根と称するこのような住宅は、北海道では馴染み深いが美しいとも言い難く、道外では見たことがない。ともすればバナキュラーでアノニマスなデザインであるようにも思えた。

 

北海道近代民家史を簡単に振り返ると1950−60年代に三角屋根(※1)の様式が確立し、後を受けた異形屋根(※2)の時代は60年代から10年ほど続いた。異形屋根様式は様々な視点から分類可能であるが、様式変化の理由について調べると肝心の動機がわからない。

 

もっと俯瞰して人類史の視座で考えると、ルネサンスのような「自⽴した様式の概念」ではなく、「正当な様式からのズレとして定義される人類が歴史的に繰り返す概念」であるマニエリスムとすると整理がつく。近代でいうモダンとポストモダンの関係のように、三角屋根に対する異形屋根と位置づけることは、それほど乱暴な話ではないだろう。そのような北海道民家史における奇想とも言える異形屋根住宅を次の世代に繋いでいくことが計画のベースとなった。

 

改修は1階を親世帯、2階を子世帯とし、必要所室を満足させるためには増築の必要があった。また断熱改修と構造補強も要請されていたためスケルトンまで解体し、異形屋根形態をトレースして妻側に約1間建て増した。増築部分は親子世帯を緩やかに繋げると共に農業ハウス的な空間性質を持つ共有部として、テラス、風除室、アクセス空間などの機能を兼ね備える。農家に不可欠な土間でもあり、職と住を横断する空間ともなっている。そして半屋外空間とすることで増築コストを抑えた。増築部の構造は105×180@1820で柱が立ち、耐風圧を柱の長手方向で受けることで横架材をなくす。決定された構造デザインに(ある意味強引に)プランを重ね合わせることでテラスや開口にズレが生じ、アップグレードされたマニエリスティクな様相が建ち現れた。

 

Photo : 佐々木育弥

作品データ

所在地: 北海道 富良野市

延床面積: 203.28㎡

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