西日の長屋

作品紹介

うなぎの寝床状の細長い敷地に、昭和50年(1975年)に学生用のアパートとして建てられた長屋をリノベーションした、2世帯分の住宅と事務所の計画である。

 

既存建物は、部屋が小分けにされ、窓のない部屋もあり、断熱材も湿気により性能を失っていた。建蔽率を超えて違法増築されていたので、そこを減築し、平面的にも断面的にも改修して、既存屋上に三角屋根の小屋を2つ増築した。

北海道では長く厳しい冬を快適に過すために、家全体を暖かく安定した環境をつくることが志向されてきた。この家でも1階のエリアはそれに準じたが、2階はバラバラな環境特性をもった3つの部屋を直列配置した。

 

東側の「温室の間」は、街と近隣の庭に開いた、温室のような環境である。中間期は気候に応じて窓の開放幅を調整しながら風を室内に取り入れ、外気が暖かい時は窓を全開にして、屋根と壁を備えた屋外テラスのようにする。厳しい冬でも緑が絶えない温室空間は冬の庭のようであり、猛吹雪のホワイトアウトをガラス越しに眺めることもできる。

その隣には「夏の間」があり、壁に囲まれたプライベートな空間となっているが、屋根のない屋外空間である。北欧には、大寒波でも安全に過ごせる暖かい冬用のリビングがあるが、この建物でも西側に「冬の間」を設けた。天井に近い壁に西日を室内に満たす装置を配した。

 

フロストガラスによって西日をキャッチし、ガラス面を発光させ、さらに壁と天井をシルバー塗装にすることで、その光を拡散・強調している。また、サッシの屋内側に仕上げを被せて窓枠を消し、西日の抽象度を高めた。ここでは1年を通して北海道の気候に合わせて窓の開け閉めを細かく調整したり、ノマド的に移動する必要があるため、微細な自然の変化を体感することができる。それは多少の手間の煩わしさ超えた生活の楽しみとなる。

 

Photo : 佐々木育弥

建築前の土地

リノベーション前

作品データ

所在地: 北海道 札幌市

土地面積: 89.99㎡

延床面積: 102.44㎡

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