放射筋交の家

作品紹介

プロジェクトはコロナの蔓延と共にスタートした。「コロナの影響による物価高騰」そして「昨今の世界情勢によるエネルギー事情の不安定化」など世界を取り巻く状況は変わってきている。またデフレに加えて円高の影響により日本の経済は残念ながら明るくなく、小さなバジェットの家となる傾向にある。
かつて小さな家でも豊かな暮らしの提案として9坪ハウスがあったが、それを再読し、バージョンアップする機会が来ているのかもしれない。

 

敷地は札幌市郊外の山間に位置する古い分譲地であり、その地区にかかる制限の最低面積を割り込むほどに小さい。そのため自然豊かな住宅地の割に隣家は近接している。ローコスト故にフットプリントはできるだけ小さくし、気積は可能な限り確保することとした。北側斜線の規制ゆえに接近した隣地に向かって勾配をとる屋根形状となった。隣家への落雪を防ぐために屋根仕上げはガルバリウム鋼板縦ハゼの横張として雪止めとすることにした。

外壁は耐候性とローコストの両面が求められた。屋根が縦ハゼ横張ゆえ、同じ流れで2階部分の外壁もガルバリウム鋼板縦ハゼの横張とした。1階と2階の外壁に差をつけるために、1階は縦ハゼの縦張りとした。結果、同じ材料、同じ仕上げ方で外皮を構成することができローコスト化にも繋がった。

 

敷地の東側は急傾斜の6m道路と接道しており、道を挟んで原生林が広がっている。フットプリント9坪の木造2階建てで、階高を高めに設定してロフトを散らし、階数不参入の面積を多く獲得している。また、2階は片持ちで1階よりも6坪増床している。2階の開口は東側の原生林に向かって極端に開き、自然の豊かさを最大限に享受する事とした。それらの事により構造的に不合理な構成となり、建物内を横断する筋交が多く発生した。翻ってそれが、機能・プランに対して自由に振る舞う空間の核の様なものになった。
平面的には4畳半が4つ並ぶ田の字プランで、概ねひとブロックにひとつの機能が割り当てられている。それゆえ4畳半としては大きすぎる階段室や玄関、逆に小さすぎるリビングなど、機能に対してスケールが最適化されていない。しかし、連続的につながるそれらの空間は相補的であり、全体的には面積以上のゆとりある空間として感じられる。また、建物を小さく抑え、それによってローコストに見合った断熱や換気水準でもFFガスストーブ1台程度の(一般住宅と比べれば非常に少ない)エネルギー使用量で建物全体を暖めることが可能になった。
この建築において放射筋交は原生林に大きく開く為に必要な構造要素であり、開放感のある大空間を作る為にも重要な役割を担う。そしてそれは空間に喜びをもたらし、建築全体を大らかに統合することととなった。

 

Photo : 佐々木育弥

作品データ

所在地: 北海道 札幌市

土地面積: 149.31㎡

延床面積: 69.56㎡

作品集

物件

■ 放射筋交の家

プロジェクトはコロナの蔓延と共にスタートした。「コロナの...
物件

■ 西日の長屋

うなぎの寝床状の細長い敷地に、昭和50年(1975年)に学生用...
物件

■ 澄川の舞台

築20年ほどの木賃アパートの2部屋を解体して1つの住戸にする...
物件

■ 富良野の異形屋根

北海道民家のマニエリスム 1974年に建てられ、2度の増改築を...