鎌倉の住まい

作品紹介

旧自宅をご紹介させていただきます。

竣工は2013年なので、だいぶ以前になります。自宅を設計するという行為を通して、たくさんの事を学びました。何よりそこに住む事で気が付いた事、感じた事、思った事がたくさんあります。季節や時間によって変わる住まいの表情。周辺環境やご近隣、鳥や植物がもたらす住まいへ影響。暮らす事ではじめてわかる事。それは設計者にとってかけがえのない財産になりました。こちらは独立する前、勤めていた建築会社で施工した住まいです。今は別の方が住んでいます。

場所は鎌倉。当時、小津安二郎の映画の雰囲気が好きで、鎌倉に惹かれていました。敷地を訪れた時、天気が良く、木々の隙間から降り注ぐ光、響き渡るウグイスの鳴き声、さわやかな空気感に心を奪われました。目の前には鬱蒼とした山があり、野性味あふれお世辞にも美しいとはいえない緑でしたが、足元には地域の人が植えたであろうアジサイがあり、周囲には抜ける視線があり、とても静かな環境でしたので、小さな敷地ではありますがここで暮らす事を決めました。住まいを計画する際、はじめからイメージとしてあったのは、日本の住まいをつくるという事。この場所にふさわしい住まいをつくるという事。また小さな住まいですが、大きな広がりのある住まいにしようという事。二階は大きなひとつの部屋になっています。

屋根の形がそのまま室内の形となり、そこに居間、食卓、台所を配置し、それぞれが少しづつ視線をずらしながら、必要な用途、機能、その場所の特性、人の気持ちに合わせた居場所をつくり、ひとつ屋根の下で家族がつながっているような住まいです。今、振り返ると、力が入りすぎていた面もあり、もう少し力を抜いて、もっと気楽に楽にして良かったと思う事もありますが、ただそれ以上にここで考え、実践し、得られたことがとても多く、住まいにある豊かさ、そこにある豊かさを身体を通して、時間を通して、感じる事ができたという事が、私の住まいづくりを考える原点になっているのだと思います。

作品データ

所在地: 神奈川県 鎌倉市

延床面積: 91.14㎡

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