所在地: 茨城県 石岡市
作品紹介
畳敷きの茶の間とキッチンダイニングのリノベーションをしたいという依頼があった。子どもが独立、ご主人の退職によって家で過ごす時間が多くなったことから、料理をしながら夫婦の会話ができるようなレイアウトの調整を、という要望がはじめにあげられた。子どもや孫が帰って来たときに皆でくつろげると同時に、日常使う夫婦にとっても居心地の良い空間へと改修したいという。
現地調査に伺うと、伝統構法で建てられた大きな平屋が彼らの持つ畑に囲まれて建っていた。自ら施工した配線や配管への愛着を語る夫や日常生活の様子を語る妻、そして居室を構成する真壁の穏やかな経年変化を前にして、ドラスティックな空間更新としての「リノベーション」をするのではなく、あるいは仕様や性能を更新するような「リフォーム」をするのではなく、今そこにある空気を紡ぐような「修繕」をしたいと考えた。極力元の仕上げをそのままに現すこと、必要に応じて新たに加えた部材や仕上げはエージング処理や色合わせなどをせずに用いること、そしてその差異を表現として用いないことによって、新旧の間の忖度を発生させずにリフォームとリノベーションの間にある何かを拾い上げる。まるで細胞の新陳代謝の様に、古いものに新しいものが少しずつ重なりまた更に重なり、その場所の歴史は紡がれていく。
ささやかな修繕の寄せ集めかもしれないが、今まで紡いできた歴史の上に立つ現在、ひいてはその先にある未来との対話とも言える。建築家の陥りがちな、強いコンセプトや空間性の提示への強迫観念、それにも似た存在意義の探求は、そういった対話の先にあることを改めて思い知らされたプロジェクトであった。