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レストラン フェネトレ(店舗併用住宅) / Fenêtre (House combined with Restaurant )

作品紹介

シェフとその家族は北海道東部独特の静けさ、色、素朴さに惹かれ、10年ほど前からこの地に店を構えている。
街なかにあったレストラン兼用の住宅は、清らかな水と木々のささやきに導かれ、森に面する郊外へ移転することとなった。

 

-20℃を下回ることもある気候的な厳しさと予算上の制限から、外壁面積をできるだけ抑えた単純な四角形平面を基本とし、敷地内の既存樹木を避けた空地に、地盤の緩傾斜に沿うようにして建物を配置した。無落雪屋根の端部は、わずかに傾斜屋根の表情を残しながら、客人の安全確保や外壁の劣化軽減に寄与する小庇となって建築の外周を廻っている。ある意味不格好ともいえるこのフォルムだが、北海道においては恐らく70年代から見られる最も馴染み深い無落雪屋根形態であり、そのエッセンスをサンプリングすることで、このレストランが「普通の建物」として周辺地域に馴染み、親しみを持って愛されることを目指した。

 

料理と同時に森の表情も楽しんでもらえるよう、枝葉に近い2階をレストランにする一方、シェフの子供たちが気軽に土に触れられるよう1階を住居にあてた。長方形平面の四隅に配されたボックス状の構造的柱体が無落雪のフラット屋根を支え、その間に「個」と「全」が曖昧に同居する十字型平面が生まれる。この平面形状によって、中央の広場から外周に分散したアルコーブ状の場まで、利用人数やアクティビティに応じたフレキシブルな空間使いが、店舗と住居に共通して展開できると考えた。
子供たちが住まう兼用住宅でもあることから、二つの柱体内部を吹抜けや階段室とし、曜日や時間に応じた屋内建具の開閉によって、店舗と住まいの距離感をコントロールできるようにした。また、屋内窓を開放することで吹抜けとペントハウスが連続し、建物全体の空気循環を効率的に行うことで、冷暖房負荷を抑えようと考えた。
2階天井上にあるペントハウスは、ナイトパージや雪下ろし作業時の安全な出入口としてはもちろん、弧断面を持つ銀天井への写り込みにより、屋根周囲に広がる梢の動きや葉色を抽象化して室内へ届ける装置としても機能する。1階床は地盤の傾斜と十字型の平面に呼応した階段状のステージとなっており、天井高のあるリビングへと家族を誘い、森や小川と生活を繋げてゆく。

 

「広い世界にある文化と、地元で入手できる親しみある素材とを、自分なりの方法で素直に調理する」というシェフの理念から生み出される料理には、静けさの中に、小さな驚きや発見が散りばめられている。マダムが醸し出す穏やかな空気の色は、テーブルに置かれた料理を一層際立てる。我々は、夫妻が持つこうした空気感や料理に対する哲学を、ささやかな工夫を内包した小さな建築として表現することを志向した。

 

 

■Photo:酒井広司

作品データ

所在地: 北海道

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