所在地: 沖縄県
作品紹介
この建物には柱が一本しかない。
海から300mくらいの高台にある敷地は、遠くに海を臨むことができ、一日中風の抜けるとても気持ちの良い場所だ。
傘を広げたように1本の柱からのびる屋根と壁は、沖縄の強い日射を遮り、ちょうど周囲からの目線を遮る高さで下げ止まっている。夏の日射はほとんど室内には入らず、窓を開けると気持ちの良い海風が抜けて、真夏でもエアコンが不要なほどだ。外壁は沖縄の過酷な環境に耐え、古びない素材としてガラスにしている。一本の柱で基礎と躯体にかかる費用を最小限とし、シンプルなガラスのディテールとすることで、重量感のある塊が浮遊する、特徴的な佇まいをつくりだしている。
室内は一本足を中心とした大きなワンルームで、柱が空間に奥行きを与えている。中央に柱があるだけの構成ながら、「その向こう側」がつくられて、ワンルームとは思えない広がりが生まれた。コンクリートと木という少ないマテリアル、天井高さと下がり壁というスケールの操作だけで、変化することを受け入れるしなやかな空間をつくりだした。
形や佇まいは一見奇抜に感じられるかもしれないが、のびのびと暮らしたいというクライアントの要望、沖縄の風土や環境との付き合い方、コストを複合的に解決し、住宅と異なる機能に転用できる構成と、何を受け入れても変わることのない空間の強度を持つ建築を目指した。
建築をつくることは重力をデザインする事だ。
この住宅では、荷重を受ける接地面を最小限とし、屋根と壁というコンクリートの塊を浮かべることで、外部環境との関係性や、内部空間の快適性、コストの制約に応えようとしている。9.8Nという重力そのものを変えることはできないが、形態やマテリアル、スケールの操作によって重力をデザインすることはできるはずだ。当たり前のようにも思えるが、こうしてつくられる建築の不思議な佇まいや、空間の広がり、外部との関係性に魅力を感じている。
■掲載メディア
ArchDaily February.2023
architecturephoto March.2023
designboom March.2023
dezeen May.2023