所在地: 大阪府 大阪市
延床面積: 227.18㎡
リノベーション
大阪市内に建つ寺院の庫裏の改修計画です。
由緒ある寺院を引き継がれた若いご住職夫妻は古くなった庫裏を建て替えるのではなく、檀家さんやご先祖さんとともに時を重ね、街の記憶を紡いできた建物をリノベーションして活かす道を選ばれました。
<考えたこと>
■ゾーニングによる機能と動線の整理
改修前の建物は、長い年月の間にその時々の必要に応じて増改築を重ねた結果、かつての庭も、庭によって担保されていた採光や通風も徐々に失われ、内部の動線は混乱し、とても住みづらい状態になってしまっていることが見て取れました。
調査を進める中で当初の間取りがおそらく素朴な田の字型に二間付け足された六ツ間取りだったのではないかということが分かってきたので、まずはそれを手がかりに大きく機能の割り振りを決めました。北側の本堂を「パブリック」としたときに、本堂に近い側、庫裏の北半分を「コモン」に充てて、本堂を補完する機能はすべてここに収めました。残りの南側半分を「プライベート」ということにして、動線の交錯を解消した上で、相互に行き来しやすい回遊動線としました。
2階は元の間取りを大きく変えず、階段の向きを反転させるという少ない手数で効果的に機能を整理することができました。階段を上った先の中央の部屋を、普段は動線をさばくためのゆとりのあるホール兼各種作業場として、また折々に子ども会の活動や節目の法要の来賓控室として多目的に利用し、日常と非日常の調整弁の役割を持たせました。
■役割の違う4つの中庭
行き過ぎた増築による機能不全を回復させるべく、増築された一角を減築して元の庭に戻しました。この「隔てる庭」のおかげで、周囲のスペースの独立性が高まり、快適に使える居住スペースはむしろ増えることになりました。そのほか、ここには元々3つの外部スペースがありました。物干し場として使われていたスペースは、居間、台所とつながるデッキテラスとして設え直し、積極的に「使う庭」としました。仏間に面する庭は少し手を入れるに留めましたが、サッシや障子が邪魔をして庭の存在感が薄かったので、自然とそちらに目が向く「眺める庭」となるよう、縁側のつくりを整えています。最後は正門から本堂、庫裏へと至るアプローチです。元は単なる動線でしたが、舗装や植栽、縁の下に眠っていた瓦などを組み合わせて、来客をお迎えする「通る庭」に作り替えました。
■耐震補強と断熱補強
増改築の履歴を辿っていくことが耐震補強をする上でも役に立ちました。瓦葺きの重い屋根を支える当初からの軸組に効率よく耐力壁を追加し、伝統的な建築のもつ開放感をできるだけ残しながら現代の水準まで性能を引き上げています。また、各部の床や居間の吹き抜けまわりの壁、2階の天井など、今回断熱を付加した箇所については新たに仕上げをすることになるため、積極的に現代的な素材を選び、そのディテールについても新たに付加した要素が明確になるよう心がけました。建物の来歴を探るようにして設計を進めていく中で、今回の改修もまたこの建物の長い歴史の一部に過ぎないと思うに至りました。その履歴を建物自体で表現しておくことが、次に繋がる確かなバトンになればと願っています。
所在地: 大阪府 大阪市
延床面積: 227.18㎡