Story 006
東京都三鷹市 I邸
大好きな旅行に行くことが減った!寛ぎと開放感のある家の物語

高い外壁に囲まれた家

 

 

コンクリートの外塀に囲まれ、外から全く家の中がわからない外観。
実はそれこそが施主が望む開放感のある暮らしを叶える仕掛けでした―。

 

「家が建った時、ご近所からは要塞ハウスと呼ばれたそうですよ」と笑うのは、設計を担当したatelierA5の清水裕子さんです。

最寄り駅から徒歩3分、井の頭公園からも近い閑静な住宅地の路地に足を踏み入れると、すぐに四角いコンクリートの大きな家・I邸がみえてきます。
要塞とまで言わしめるその外観は、家の中を全く想像させてくれません。なんとなくほの暗い空間を想像しながら一歩足を踏み入れた瞬間、その想像は裏切られることとなりました。

 

玄関の扉を開けすぐ目に飛び込んできたのは、アンリ・マティスの切り絵「スイミング・プール」。金色のキャンバスの中を、目の覚めるようなブルーが泳いでいます。外光の淡い光が射し込み、コンクリートのひんやりとした壁の雰囲気と相まってまるで美術館のよう。道路に面した門扉から続く玄関は当然1階だと思っていましたが、傾斜地に建てられたI邸は入り口が地下1階。つまりは、地上2階・地下1階という構造でした。

 

ご夫妻の歓迎を受け、玄関から1階へあがると、雰囲気は一転。階段を昇ると正面に壁のように大きなガラス窓。その向こうに広い中庭がみえます。右側にはレザーのソファが美しいリビングスペース。そのまま視線を反対に滑らせば、大きなダイニングテーブルとシャンデリア、部屋のずっと奥まで伸びた悠々と広いキッチンスペース。中庭を臨むL字型の窓からたっぷり採りこまれた景色が、半野外的な空間を創りだしています。

 

この外観と内部の大いなるギャップはI邸の魅力であると同時に、実は家づくりの本質でもありました。

玄関ホールから廊下へ

外観

建築家と家を「創る」ことについて




元々ご主人がマンション派ということもあって、長らくタワーマンションの高層階に住まわれていたご夫妻。東日本大震災発生時にエレベーターが止まって不便な思いをしたことをきっかけに、「戸建てに住みたい」と長年思っていた奥様が、戸建ての魅力を少しずつご主人に刷り込む日々から始まりました。

「当初は中古住宅でもいいかなと思って色々見学に行ったのですが、なかなか理想的な家に巡り合えなくて・・・。でも見て回っているうちに、絶対マンションだと譲らなかった主人が、戸建ても良いかもという印象を持ちはじめてくれたんですね。」

いつそういう気になったのかはわからないんですけど(笑)と奥様が笑うと、ご主人が実は・・・と切り出します。

 



—ある日見学に行った物件が、たまたま建築家が設計した家だった。


 

 

「実のところ、出かける前まではそれまでと同じく、どうせ見に行ったところで私の気持ちは絶対にマンション派だ!と思っていました(笑)でも、その家に入った途端、今までさんざん見てきた家と何か違うなと感じたんです。好みで言えば、私の好みではなかったけど、この家に住んでいた人が自らの好みをしっかりと反映して建てたオンリーワンの家なんだなとわかりました。その時はじめて、自分の好みを自由に反映させることができるなら建築家に依頼して戸建てもアリだなと。」

 

知らなかった!と驚く奥様に、その時はまだそう思ったことは隠していたと話すIさん。
奥様の戸建てPRは意外と早い段階で功を奏していたようです。



予算の事もあり、当初は住宅会社による戸建ても視野に入れていたそうですが、出てくる提案は想像の域を出ず、よく言えば無難。自分たちの理想の家を求めて、やはり建築家に依頼してみようと、それぞれ別々にホームページや雑誌などから気に入った住宅写真をピックアップしたところ、2人揃ってNo.1候補に挙げたのがatelierA5建築設計事務所でした。

エアコンも木製のカバーで目隠し。エアコンを視覚的に隠すことで、一気に部屋の印象はクラスアップ。

キッチンの下のちょっとあいたスペースに、木製の引き戸を付けたら、そこはアリスちゃんのお部屋。ワンちゃんの居場所って、大きなケージがあったりモノが増えてごちゃごちゃしがちですが、スペースをうまく有効活用されています。美しく整頓されて、お掃除も楽ちんです。

最高に楽しめた家づくりのプロセス

 

 

「訪問したその日のうちに、皆さんと話が弾みました。全員お話し上手で!atelierA5さんは清水貞博さん・清水裕子さん・松崎正寿さんの3人でやっていらっしゃるのですが、皆さんそれぞれが本当に熱心に話を聞いて下さいました。私たちの場合は、その中でもメインで担当して下さったのが裕子先生でした。キメ細かなヒアリングを通じて、わずか2週間で3つも案を出してくださったのにも驚きましたが。それが3案とも良い意味で自分たちの想像をはるかに超えていて・・・!ワクワクしたのを今でも覚えています。(奥様談)」

 

atelierA5の清水裕子さんとの出会いで、ついに家づくりが動き出します。毎回の打ち合わせは、いつも時間を忘れるほどさまざまな話やアイデアが行き交い、こんなに時間を頂いて他のお仕事にさしつかえないかと、いつも帰り道で心配になるほどだったとか。

 

「atelierA5さんは決して建築家としての意見に固執することなく“本当に暮らしを楽しむためにはどうすればいいか”を徹底的に考えてくれました。私たちの望みを高いレベルで叶えようとしてくれていることが伝わってくるので、楽しくて仕方がなかったですね。」とご主人が言えば、「この頃の主人なんて“マンション派”の文字はどこかにいってしまって、次の打ち合わせいつ?って私より楽しみにしてたくらい(笑)」と奥様も笑います。

心地良さのカギは、光と風の通り道

 

 

I邸の地下1階には、専ら音楽好きのご主人がバンド仲間と練習するホビールームがあります。ギターにピアノ・ドラムセットが並び、奥には素敵なバーカウンターが。ご主人曰はく「練習後にワイワイ飲むのは最高!息子に至っては自室より音楽ルームの方が勉強もはかどるみたいです。」と男性チームは特にお気に入りの一部屋。

 

 

1階は中庭とダイニングキッチン・リビングが一体となったフロア。家族団らんの中心であると同時に、来客時にはパーティスペースとしても大活躍。5メートルもの長さがあるカウンターが圧巻のキッチンは、調理スペースが奥にあるので来客から見えづらく「来客時に調理や洗い物に専念できる」嬉しい設計です。2階のバスルームには大型のホーローバスタブ。ホーローは蓄熱効果が高いうえに肌触りも滑らか。大きなガラス窓から外を臨む視界は、露天風呂に入っているかのような開放感があり堪らないそう。

 

家中どこにいても、コンクリートの外壁に囲まれた外観からは想像できないほど家全体が明るいのは、各部屋に設けられた窓から外光が差し込んでくることに加えて、各階が閉鎖的にならないよう地下から2階までがゆるやかにつながる構造が大きく貢献しています。

窓やルーフウィンドウを開け放すと、計算されつくした設計により、地下から上の階まで風の通り道が生まれます。湿気対策や温度調節を空調や照明に頼りすぎることなく、心地よい毎日をアシストしてくれていました。

音楽仲間の集まるホビールームに作られたバーカウンター。左にはワインセラーが納まり、右側の木製ドアを開けると中はなんと冷蔵庫。冷蔵庫を見せないように、家電にあわせて収納を設計したのだそうです。カラフルな琉球ガラスのぐい飲みは、旅行好きのIご夫妻の沖縄土産。

キッチンからリビング色@大きなガラス張りの窓からみえる中庭のおかげで、半内外のような開放的な空間です。使いやすくて気に入ってますという、オシャレなキッチン水栓はグローエのもの。

開放感はオープンにするだけでは得られない

 

 

この家の特長でもあるコンクリートの外壁は、奥様のご希望を反映したもの。

奥様が中古住宅を探していた時期に多く見かけたのは、隣家や道路から見えないよう日中でもカーテンやブラインドで窓を覆っている家でした。「近所の目を気にして窓を覆うような家は残念だな」と強く印象に残っていたそうです。

 

清水さんは、「開放感はプライバシーが守られてこそ得られるもの」との考えから、敢えてコンクリートの外壁で囲んだ閉鎖的ともいえる空間を作り上げました。ご夫妻が真に望む暮らしを汲みとって設計されたI邸の住み心地について伺うと「実際にこのお家で暮らすようになってから、家では本当にリラックスできます。」というご夫妻の日々の一コマにはこんなエピソードも。

 

「外からの視線が本当に気にならないので、主人と子どもは、お風呂上りに中庭で裸で月を眺めたりしてます。私は服を着てほしいんですが、そのままが気持ちいいみたいで・・・。でもそんな風に言えるのも、AtelierA5の皆さんがこの家をつくってくれたからこそ、ですね。贅沢な悩みです(笑)」


「以前は、国内海外を問わずよく旅行に行っていましたが、この家ができてからは我が家にいる方が寛げるので、気づいたら最近はあまり旅行に行かなくなりました。実は外食の回数も減ったんですよ。家で食べる方が安いですし、美味しくて楽しいので。」

 

 

旅行に行くより、外食に行くより・・・家が一番寛げる。

 

ご夫妻が、家を「創る」ことをあきらめず、とことんこだわった先に手に入れたのは
ただの家ではなく、最高の贅沢と自由のある日常でした。

夫婦でお料理が大好き。だから、キッチンには特にこだわりました。外食が、ぐん!と減った代わりに増えたのは「美味しい」の笑顔。

ダイニングテーブルからキッチン@煌めくシャンデリアとすっきりビルトインされた冷蔵庫。スイッチカバーも黒で統一したりと、細部にいたるまでこだわりぬいた家族みんなの集うリビング・ダイニング。

-Iさんご夫妻へ5つの質問-

Q1:家を建てる前に想像していたよりも良かったことは?

奥様:コンクリート打ちっ放しなので、気温や湿気対策は多少心配していましたが、思っていた以上に風通しがよく、地下1階から3階に吹き抜ける風が心地良いことですね。

Q2:家づくりで思い出深いことは?

ご主人:施工を担当する工務店の社長さんが、自ら気にいって保存していた黒檀材を「家に合うのでは」と提供してくれまして。黒檀材を使った門扉やトイレの鏡フレームを制作し、それを自分で塗装して仕上げたことは素晴らしい体験でしたね。

Q3:建築家から提案されたことで取り入れて良かったことは?

奥様:家中がそういう提案の固まりですが(笑)、ガラス貼りのリビング・ダイニングを支える柱として無垢の鉄材を提案して頂いたことは、想像だにしていなかったので驚きました。頑丈なのにほとんど目立たないので、素晴らしい空間を演出できたと思います。

Q4:プライベートルームの壁紙がとても印象的です

奥様:ありがとうございます。WALPAという輸入壁紙のお店で悩みに悩んで選びました。
これも選ぶとき裕子先生にお付き合いしていただいて、壁紙の画像をパソコンで部屋に使うとこんな感じとシミュレーションしていただいたりもして。夫婦の寝室は、ゴッホの名画「花咲くアーモンドの枝」の花柄です。子ども部屋は息子が自分で選びました。アインシュタインの特殊相対性理論が描かれてる黒い壁紙で、勉強しようっていう気持ちになるみたいです(笑)。

Q5:お料理の本がすごく沢山ありますね。家の中で一番のお気に入りの場所はやっぱり?

ご主人:夫婦共に料理をしますし、家族が集まり、来客と語らうベース基地のような存在でもあるキッチンですね

奥様:私もキッチンにいる時間が好きです。GAGGENAU(ガゲナウ)のオーブンを入れたのですが、まだあまり使いこなせていなくて・・・。普通では出来ないような使い方が色々あるみたいなので、もっとお料理の研究をしてみたいですね。

取材後記

中庭に囲まれた1階のダイニングキッチン・リビングスペースは、高級リゾートにあるヴィラような雰囲気があり、「ここにいれば旅行に行く回数が減るのも当然だなあ」とうらやましく感じる、そんなI邸は外観と内部の素晴らしいギャップが魅力的なお宅でした。(文:上野)

 

Iさんが、この居住空間を作り上げるために選択してきた、モノを組み合わせるバランス感覚・センス。そのセンスがお金で買えるものなら売ってほしい!と思えるほど素敵なお住まいでした。コンクリートの石の質感と木のバランス、光と影のバランス、雑貨や絵の色のバランス。「こだわり」という名の、この抜群のバランス感覚を全て寸分の狂いなく拾い上げ、ひとつひとつ積み上げたアトリエA5さんに、やはりプロってすごいと畏敬の念を抱いた空間でした。Iさん、atelierA5さま、ありがとうございました。(編集:森本)