コンクリートの外塀に囲まれ、外から全く家の中がわからない外観。
実はそれこそが施主が望む開放感のある暮らしを叶える仕掛けでした―。
「家が建った時、ご近所からは要塞ハウスと呼ばれたそうですよ」と笑うのは、設計を担当したatelierA5の清水裕子さんです。
最寄り駅から徒歩3分、井の頭公園からも近い閑静な住宅地の路地に足を踏み入れると、すぐに四角いコンクリートの大きな家・I邸がみえてきます。
要塞とまで言わしめるその外観は、家の中を全く想像させてくれません。なんとなくほの暗い空間を想像しながら一歩足を踏み入れた瞬間、その想像は裏切られることとなりました。
玄関の扉を開けすぐ目に飛び込んできたのは、アンリ・マティスの切り絵「スイミング・プール」。金色のキャンバスの中を、目の覚めるようなブルーが泳いでいます。外光の淡い光が射し込み、コンクリートのひんやりとした壁の雰囲気と相まってまるで美術館のよう。道路に面した門扉から続く玄関は当然1階だと思っていましたが、傾斜地に建てられたI邸は入り口が地下1階。つまりは、地上2階・地下1階という構造でした。
ご夫妻の歓迎を受け、玄関から1階へあがると、雰囲気は一転。階段を昇ると正面に壁のように大きなガラス窓。その向こうに広い中庭がみえます。右側にはレザーのソファが美しいリビングスペース。そのまま視線を反対に滑らせば、大きなダイニングテーブルとシャンデリア、部屋のずっと奥まで伸びた悠々と広いキッチンスペース。中庭を臨むL字型の窓からたっぷり採りこまれた景色が、半野外的な空間を創りだしています。
この外観と内部の大いなるギャップはI邸の魅力であると同時に、実は家づくりの本質でもありました。