Story 011
東京都杉並区 O邸
住宅街の暮らしでも自然とともに。普遍的価値のある家の物語

リビングからつながる庭の景色が、Oさんご夫婦の一番のお気に入り。

Oさん宅を訪れたのは風薫る5月。
庭木にこだわったお住まいということで、新緑の美しい季節を選びました。

敷地はコンパクトながら豊かなグリーンに包まれ、アプローチでも庭でも木々や草花が元気よく葉を広げています。

「室内からの庭の眺めが好き」とおっしゃるOさんに、緑を楽しむ住まいの魅力をうかがいました。

 

提案されたプランが輝いて見えた


「夫は自然が豊かな地方育ち。私(妻)は自然に憧れる都心育ちで、植物を育てるのが好き。趣味や好みはけっこう違う2人ですが、『自然が身近な暮らしがしたい』という思いだけは共通していたんです」

 

そう話してくれたOさん。住んでいた賃貸アパートが手狭になり、マイホームを考え始めたときも、やはり「庭のある一戸建て」が理想だったといいます。

 

土地探しと同時進行で、家づくりの依頼先をネットで検索。大手住宅メーカーから1社を選び、設計事務所も数百件(!) リサーチする中で、ひときわ目を引いたのが、外空間と緑を生かす家づくりをすすめる「村田淳建築研究室」でした。

 

「私たちの新居のイメージと、村田さんの掲げるテーマがぴったり合ったんです。お会いしてみると、とても誠実でおだやかなお人柄。住まいのことを本当に大切に考えていらっしゃることが、お話を通して伝わってきました。作品も流行に左右されず、時を経ても変わらない普遍的な価値をもっているという印象。それでいて、今の時代らしいモダンな雰囲気もあるのが不思議なんですよね」

 

村田さんによると「住まいにとっての緑は、かならずしも不可欠なものではないんですよね。でも、あれば暮らしにゆとりが生まれますし、日常生活が豊かになります。それに、敷地が狭くても日当たりが悪くても、プランしだいで緑を楽しむ住まいはつくれるんですよ」

 

幸いにも希望のエリアで土地が見つかり、村田さんと住宅メーカーからそれぞれプラン提案を受けたところ、大きな差を実感することに。

 

「住宅メーカーからいただいたプランは、図面を見ながら説明を受けて、やっと納得する感じ。それに対して村田さんのプランは、一目見ただけでパッと暮らしのイメージが湧いたんです。もう図面が光輝いて見えたというか(笑)。プランのオーラが違う!と興奮して帰ってきたのを覚えています」

植栽と庭のグリーンが、外からの視線もほどよく遮ってくれる。

常緑のヤマボウシ。初夏にだけ咲く可憐な白い花。

庭木の変化から、四季の移り変わりを知る暮らし


お2人が要望として挙げたのは「外と内が連続していて、外でも過ごせる家」「たくさんの居場所がある家」。
具体的な間取りではなく、空間のイメージやそこでの過ごし方をおもに伝えたそう。 

「私たちが細かく指定するより、村田さんにおまかせしたほうがいい家になると思ったから。実際、プランにはリビングと一体感のあるデッキや、ちょっと腰掛けられるベンチ、夫婦それぞれのワークスペースなど、コンパクトな中に要望がバランスよく盛り込まれていました」

 

大きな窓でリビングにつながるデッキは、気軽に一歩外に出ることができる、室内の延長のような外空間。そしてその先に広がるのは、お2人の念願だった緑あふれる庭スペースです。

 

一般的には後回しにしてしまいがちな外構や植栽を、最初からプランに含めて計画したのが功を奏し、街からも室内からも楽しめるグリーンビューが完成。植栽を担当したのは、村田さんと長いおつきあいのある「高松造園」です。

 

シンボルツリーのヤマボウシをはじめ、ブルーベリーやサルスベリ、モッコウバラなど、さまざまな枝振りや花、実を楽しめる植物が庭とアプローチを彩ります。初夏の新緑はもちろん、落葉樹が色づく秋、葉を落とす冬も、それぞれに魅力があるそう。

 

「家にいながら四季の変化が感じられるのがうれしくて、寒い冬にわざわざデッキでお鍋をしたことも(笑)。子どもたちも花が咲いたね、葉っぱが出たねと話したり、ブルーベリーの実を摘んだりして楽しんでいます」

リビングにはいつも庭の四季と陽の光。時間とともに傾く影の変化も美しい。

家庭菜園も楽しめるのが庭の醍醐味です。ナスにたっぷり水をあげて。

その日の天気と気分で調整できる照明設計


部屋・景色ではないですが、住んでみてつくづく思うのが「部屋の明るさ、照明の設計が素晴らしいな」というところです。

「欲しいところに明かりがちょっとつづ足せたり、いらない時は引き算できるような絶妙な使い勝手で、本当にすごいなと。その日の気分に合わせて量や明るさを変えて楽しんでいます。」


1階のリビングは吹き抜けを通して、大きなトップライトから北向きのやわらかな光が落ちてきます。これも室内にいながら自然が感じられるポイント。

見上げると空の色や雲の動きがわかり、トップライトを開けると風が心地よく吹き抜けます。特に朝は、よく二階の洗面所で歯磨きをしながら、吹き抜けの窓から朝の空を眺めるのが日課なのだそうです。

曇りの日でも、障子越しにやわらかい明かりが入ってきます。
この日は障子をぴったり閉めて、TVの上のライトだけ点灯すれば、また違った雰囲気に。

2階の洗面スペース。すぐ横に天窓があるので、明るく気持ちがよい!物干しバーがあるので、ここでお洗濯物も干せるところも嬉しい。ベルックスの天窓はリモコン操作で1階から楽々開閉できて、換気もばっちり。子どもたちも、ここでゲームするのが好きなようです(笑)。

いくつもの居場所で思い思いにくつろぐ


庭の眺めを満喫できるリビングは、お2人の一番のお気に入り。ソファやダイニングのほかに、壁際に造作したベンチもくつろぎの場に。居場所を変えるごとに視点が変わり、さまざまな角度からリビングや庭を眺めるのが楽しいといいます。

 

直線を生かしたデザインとナチュラルな素材感が融和した内装は、美しさと親しみが両立。Oさんが村田さんの作品を見て感じたという「凛としていながら緊張感が強すぎない空間」が、この家でも形になりました。

「どの場所にもそれぞれの心地よさがあって、何もしていなくても楽しいんですよね。それに、実はこの家、生活面でも文句なしなんですよ。キッチンと洗面室が直結していたり、欲しいところにウォークインクローゼットや納戸などの大きな収納があったり。それが最初から図面に組み込まれていたことに驚きました。『村田さんは一度この家に住んだことがあるのでは!?』と思うくらい、毎日の家事や動線にストレスがないんです。わが家は持ち物が多いほうですが、全部すっきり収まっているから空間のよさを感じられるし、家事や生活がスムーズだからこそ、自然を愛でるゆとりが生まれるのだと思います」

 

O邸の最上階ロフトは、ご主人のワークスペース。この篭り感の居心地がよく、仕事がはかどるのだそう。時々子どもたちも乱入します(笑)

「村田さんが穏やかで、家づくりの間ひとつも揉めたりケンカしたことがなかったね。」と当時を振り返るも、終始和やかな思い出に溢れるOさん夫妻。

Q1: いちばん好きな庭木は?

夫婦2人ともヤマボウシです。シンボルツリーとしての存在感があるのに、枝振りが繊細なのがお気に入り。葉っぱの形や、初夏に咲く白い花もかわいいんですよ。

Q2: お庭の手入れはどうしていますか?

害虫や剪定などについては、高松園芸さんにLINEで質問したり、たまに様子を見にきてくれた時に相談したり。普段は出勤前の水やりくらい。広い芝生のお庭だったら草むしりなどが大変かもしれませんが、この広さなので手入れに苦労することはありません。

Q3: 家づくりの予算調整の中で、譲れなかったこだわりの場所は?

玄関とウッドデッキの軒下に使った外装材。外壁と同じ吹き付けにすればコストは下がりましたが、室内との連続性を重視して木材を選びました。天井が室内から外までつながって見えるので、外との一体感が高まったと思います。

Q4: トラブルなどを含めて、思い出深いエピソードは?

着工したら地中に貯水槽が見つかり、撤去や土地の造成などで工期が2カ月ほど伸びました。さらに、家づくりしていた時期はちょうどウッドショックと半導体ショックの真っ最中。建材や設備を確保するためにスタッフさんが駆け回ってくれて、頭が下がりました。

Q5: 工務店の印象は?

「滝新」さんは村田さんとは初めてのタッグだったそうですが、それが感じられないくらい息の合ったコミュニケーションとお仕事ぶりでした。創業50年とのことで実績豊富ですし、担当者の沼田さんがとても誠実な方で、安心してお任せできました。

編集後記

窓から緑が見える家、一歩外に出るだけで緑に触れられる家は、都市部では何よりの贅沢!私にとって憧れのお住まいを拝見することができました。
(ライター・後藤)

「外に出ようとしなくても、室内に居ながらにしてそばに外の景色がある」と感じたのが第一印象で、緑を楽しむ家という言葉が本当にピッタリ。空の色や雲の流れ、雨上がりの空気に家の中でも触れられる穏やかな時間の流れが、作り手と住まい手のお人柄を体現するお住まいでした。
O様、村田淳建築研究室様、ありがとうございました。
(編集:森本)

 

Photo:ササキトモヒロ、村田淳建築研究室(上から1,3,4枚目)