グラデーションのある壁と床
絵画、中でも壁画は、アルタミラ洞窟に描かれた時代から人間が感動や歓喜・驚愕などさまざまな感情や想いを抱いた際に、周囲に一目で理解させ伝えることのできる表現手法として長い歴史を育んできました。建築技術の誕生と共に建物の壁面や天井・時には床にも描かれるようになり、建築空間に新たな生命を吹き込む力を持っています。
そんな世界に魅せられて壁画の世界を志した中村修平さんは、高校生の頃にはすでに壁画制作で報酬を得られるほどの腕前を持ち、美大卒業後にフレスコ画を中心に画家としての活動を本格的にスタートさせます。
フレスコ画は漆喰を壁に塗り、乾かないうちに水性絵具で絵を描く手法で、漆喰が濡れているうちに全てを描く必要があるために事前の構想力が要求される絵画でもあり、元々の芸術感覚に加えて、フレスコ画で培った「構想する力」は中村さんの現在の仕事にも大いに活かされています。
数多くのフレスコ画を描いているうちに壁全体の装飾なども依頼されるようになって、特殊塗装のおもしろさに気づいた中村さんは、3年間の修行をした後に特殊塗装職人として独立を果たします。
一般塗装と違って特殊塗装というのは、建築家やデザイナー・施主の「こんな雰囲気にしたい」という抽象的な要望を汲み取って、壁や天井など(塗る)対象をじっくりと観察して状況を把握した上で塗料の選定を行い、さらに温度や湿度なども計算して制作していくというもので、毎回毎回、まったく新しい絵画を創造するのと同じようなエネルギーが要求されます。
そんなシビアな世界で一流の仕事を残し続けてきた中村さんは、建築家やデザイナーから「塗る対象への観察力が鋭く、塗料の知識が圧倒的。ビジョンを共有する力にも優れているので、我々の抽象的な要望をきちんと捉えて具現化してくれる稀有な存在だ」と高い評価を受けています。
塗装ルームで作業する中村さん
壁面全体を塗装中
話題の商業施設や店舗などで数多くの作品を遺してきた中村さんですが、最近は「もっと住宅に関わってみたい」という希望を持っています。
「住まう人の人生に関われるのが住宅であり、施主とじっくり向き合って、その人や家族の人生を包み込むような仕事を遺してあげることができれば、本当に素晴らしいと思うのです」
そんな中村さんの趣味はチェス。ネットを通じて世界中のチェス愛好家と対戦しているそうです。チェスもまた構想力が必要とされるゲームであり「仕事に役立っていますよ」と話されていました。
ガラスを塗装