山本さんは頼もしい石場建ての仲間です。山本さんの高い技術や豊富な知識はもちろん、研ぎ澄まされた感性も信頼しています。
石場建ては柱や梁といった構造材まで現しになるので、材の仕上げや継手仕口といった接合部にも美しさが求められます。山本さんが丁寧に仕上げてくれた材や接合部はさりげないけど、確実に建物の質を上げてくれます。それは技術に裏打ちされた感性によるのだと思います。
古い蔵の改修工事では、傷んだ柱に山本さんが施して下さった金輪根接ぎがとてもカッコよく、私も施主も隠すのが惜しくなり、キッチンの配置を変えて根接ぎを表にしました。ただの補修箇所ですら魅力に変えてしまうのです。山本さんの手斧によるハツリも魅力的です。亀甲模様の天井や式台、波模様の床板など、空間に密かな躍動感を与えてくれます。
山本さんが率いる杣耕社の現場は、建物に対する愛情や大工の誇りが溢れていて楽しいです。それが施主にも伝わるのでしょう。竣工が近づくと、完成を喜びながら、現場が終わるのを惜しんでくれます。それは、設計者としてとても嬉しいことです。
素敵な仲間に感謝!
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伝統建築技法「石場建て」の匠 【大工杣耕社|山本 耕平さん】
夏は高温多湿・冬は寒冷乾燥という真逆の気候サイクルに加え、何よりも地震の多い日本は建物に厳しい環境であり、それだけに古来幾多の工夫がなされ、優れた建築技術は時代を超えて継承されてきました。石の上に柱を乗せるだけで礎石と土台を固定しない「石場建て」も、千数百年の時を経て現代に受け継がれてきた優れた建築技法の一つです。
石場建ての最大の利点は「地震に強い」こと。
大地震の際には、石の上で柱がずれることで揺れを吸収し、建物への被害を「散らす」役割をします。
もうひとつ「通気性に優れている」ことも大きなメリット。
昔から、高温多湿の夏は建物を傷める大きな原因になってきましたが、通気性が確保されている石場建ては防腐性に優れ、住まいの寿命を大きく伸ばしてくれます。
そんな石場建てに惚れ込み、岡山を中心に数多くの建物で実践しているのが杣耕社(そまこうしゃ)の山本耕平さんです。宮大工として仕事人生をスタートさせ「木造建築と言えば石場建てが当然」という環境で修行していた山本さんは、独立して一般住宅を手がけるようになって「石場建て住宅が極めて少なくなっている」ことに驚きます。
現代建築に比べて多少コストがかかることが大きな理由であり、ビジネスだけを考えれば石場建てを封印することもできたのでしょうが「自分自身が信じられることに取り組みたいし、何よりもやっていて面白い」と、ずっと石場建て建築に取り組んできました。
「石場建て」の伝統技法を、現代住宅へ
宮大工として厳しく鍛えられた技術を基盤に、石場建てはもちろん、伝統建築で磨かれた数々の優れた技法を活かした丁寧で美しい仕事ぶりが、建物を依頼した施主や建築家の間で評判となり、山本さんは石場建ての世界では名の知れた存在になっていきました。
山本さんは、決して「こうあるべきだ」といったこだわりを持つ昔気質一辺倒の職人ではありません。
「自分の独りよがりで細かいところにこだわり過ぎるのは良いことだとは思いません。施主さんには予算もありますから、その中できちんとメリハリをつけてあげることが大事だと思っています」
高価と思われている「石場建て」などの伝統技法を、一般的な現代住宅で使えるようにと工夫しているのも、山本さんが評価されている理由でしょう。
山本さんにはアメリカ人のお弟子さんがいます。
日本の伝統建築を研究していたジョナサン・ストーレンマイヤーさんが、山本さんの石場建て技術に惚れ込んで「これぞ天職」とばかりに押しかけ弟子になったのは2013年のこと。今や山本さんに代わって棟梁として現場を仕切るまでになっています。
さらに、ストーレンマイヤーさんに感化されたアメリカ人青年がまた新たな弟子となり、日本の伝統建築技法が外国人によって継承され、新しい表情を伴って成長していきます。
山本さんの「伝統技法を守る!」といった肩肘を張ることもなく「楽しいからやっているんですよ」と言う穏やかな笑顔から溢れ出る想いがバトンとなり、次世代へと渡っていく流れが見えました。
山本さんは「日本の伝統建築も、元は海外から伝来したものが日本固有の文化と融合してきた訳ですから、日本人とは異なるセンスを持った彼らによって日本の伝統技法がどう解釈されるのかを見るのは楽しみですし、勉強にもなるんですよ」と語ります。
日米両国の匠たちによって、日本の伝統技法「石場建て」が紡がれていく。
「石場建て」には、国境を越えた物語がありました。
私が推薦します
一級建築士事務所 バジャン
建築家 和田洋子