プロの住宅レシピ ちょっと立ち寄りたくなる、住まいと界隈をつなぐリノベーション

川口 琢磨
細い路地の奥、袋小路に建つこちらの住まいは、長年使われていなかった駐車スペースを、“界隈と住まいをつなぐ玄関”へとリノベーションしました。
この玄関は住まいの単なる出入り口ではなく、庭であり、土間であり、街と住まいを緩やかにつなぐ場所です。これは昔の縁側のように「人が自然と集まり、気軽に立ち寄れる場所にしたい」というお施主様の思いを反映しています。
玄関に入ると靴を脱ぐ必要もなく、そのまま玄関に腰掛けて会話ができるので、近隣の方も気軽に立ち寄れ、自然なコミュニケーションが生まれます。
袋小路の突き当たりは、どうしても暗くなりがちです。人通りが少ないという特徴を活かし、玄関には窓を大きく取り、住まいが界隈へ拡張するように植栽を配置することで、住まいを近隣へ開きながらもプライバシーを確保しています。また、1階の暗がりを解消するため、玄関上部の床をガラス張りにしています。2階から1階へと届く自然光がひだまりをつくり、空間を優しく温めます。
街につながる玄関ということで、半屋外のような開放的な雰囲気を出すため、壁には外壁と同じモルタルを荒く掻き落としてリシン吹き仕上げとし、床には深岩石を採用しました。外観には伝統色を取り入れることで、地域の歴史や土地の記憶を反映しています。その場所の地歴や薫りも感じられる趣のある住まいです。
住まい全体としても、それぞれの部屋がひとつの空間で完結するのではなく、隣り合う部屋とのつながりを大切にしています。室内から玄関、そして街へと空間が連続し、まるで数珠つなぎのように連なっていくことで、限られた面積の中で感じる広がりのある空間体験と、面積以上の価値が生まれることを大切にしています。