プロの住宅レシピ 小さな工夫を積み重ねてつくる、 小さな家の大きなキッチン

竹本 卓也
「小さいから」といって、住まいの快適さを削ぎ落とすのではなく、必要なものをしっかりと確保しながら、工夫次第で広がりを感じられる空間をつくる。そんな考え方をもとに設計した住まいです。
この住まいでは、キッチンのサイズも決して小さくせず、幅2.6メートルを確保。さらに、背面にはカップボードを設け、たっぷりの収納量も確保しました。特に、冷蔵庫やトイレなどの設備を30センチほど外壁側に張り出すことで、室内の凹凸を減らし、スッキリとした空間に整えています。
キッチンの前には畳のスペースを配置。小さな子どもが床に座って遊んだり、お昼寝したりできる場所があることで、料理をしながらでも近い距離感で見守ることができます。畳の高さがキッチンと近いことで、飲み物やおやつをキッチンからそのまま渡せるのも便利です。距離が近いことで、「包丁や火が危ない」という心配もあるかもしれませんが、すべての危険を先回りして排除するのではなく、暮らしの中で学ぶことも大切だと考えています。キッチンが子どもとの距離が近い空間だからこそ、料理の様子を見せながら、「どう使えば安全なのか」を自然と教えることができます。その視点で捉えると、キッチンと畳スペースの関係性は、単なる利便性だけでなく、家族の成長を育む場にもなると考えています。
小さな住まいだから、「収納が足りない」「設備を小さくするしかない」といった妥協を当たり前にせず、必要なものをしっかり確保しながら、小さな工夫を積み重ねることで、毎日の暮らしを快適にし、帰るのが楽しみな住まいになります。
「いい空間で暮らすことは、いい生活の器を手に入れること。」その形の一つがこの住まいです。
Photo : 笹の倉舎 / 笹倉洋平