プロの住宅レシピ 「間」から広がる暮らしの可能性

北側道路に面した郊外の住宅地に建つこの住まいは、主屋からT字に飛び出すように設けた「間」という空間が特徴的です。
「地面を見て暮らしながら、季節や外の環境を感じたい」という要望の一方で、ご夫婦それぞれの理想の住まいは異なりました。アウトドア好きの旦那様と、籠り感のある空間を好む奥様。相反する価値観を調和させる居場所づくりが、この住まいのポイントとなりました。
そこで、限られた真四角の敷地の中で、ただ四角い家を建てるのではなく、長屋のような主屋をあえて端に寄せ、T字型に「間」の空間を挿入することで、敷地の豊かさを保存しながら建物の奥にまで引き込まれるよう設計しました。
通常、敷地の最も良い場所に建物を配置するのが一般的ですが、この住まいでは、主屋を敷地の端に寄せるように配置しながらも、光や風の取り入れ方を工夫することで、住まい全体の心地よさを追求。開放感と籠り感をバランスよく取り入れました。
1階はキッチン・ダイニング・自由に使えるフリースペース(間)が連続します。お気に入りのソファとテレビだけを置いたコンパクトな「籠る場所」と、日差したっぷりなT字型の「間」によって生まれたリビングのようなフリースペースが共存することで、同じ空間でありながらも、気分や過ごし方に応じて思い思いに過ごせます。また、「間」は、光や風を家全体に巡らせる装置のような役割も持っています。トップライトを設け、2階の床の一部をルーバーにすることで、建物全体に光と風が通り抜ける心地よさが実感でき、サンルームとしても活用できます。
さらに、「間」からつながる小さな庭を通じて、隣人との自然なコミュニケーションが生まれています。カーテンや目隠しを設けず、オープンな関係性を育めるのは、住宅機能が集まる主屋と間の機能を明確にし、「籠る場所」と「開く場所」を意識的に作っているからです。
敷地や家の広さ、環境にとらわれず、いかに心地よく暮らせるかを追求した中で生まれた「間」が、暮らしに新しい豊かさをもたらしてくれました。
Photo : ToLoLo studio