プロの住宅レシピ 中庭で暮らすという選択──視線がめぐり、ガラスが編む回廊空間

石上芳弘
愛媛県松山市の密集した住宅地に佇む、全面ガラス張りの中庭をもつ住宅。
緑が映える外庭と、デッキで内部に繋がる中庭に挟まれたリビングダイニングは、外部からの視線を気にせず、日常的に自然の豊かさに包まれて過ごせる空間となっています。
プライバシーを確保するため、外部はしっかりと閉じながら、内部には敷地の広さを活かして、開放感のある全面ガラスの中庭を計画。
視線を遮ることなく、光や緑が暮らしに溶け込む構成が生まれました。
住宅の計画が進むなかで、「子どもが安心して、自由に遊び回れる家にしたい」という想いが設計に込められていきました。夏には外庭に大きな子ども用プールを出し、近所の子どもたちが集まるにぎやかな場所に。
ガラス張りのリビングからは、中庭や外庭を広く見渡すことができ、日々の暮らしの中で、自然と子どもの様子を見守ることができます。
キッチンは、そんな暮らしの中心にそっと溶け込んでいます。
中庭と外庭をつなぐ動線の途中にあり、料理をする手元には、自然の光と空気、家族の気配がゆるやかに流れ込みます。外に開かれ、内に守られるようなその場所は、お母さんにとっての“自分の居場所”としても静かに機能しています。
家事の拠点でありながら、家全体の動きがめぐり、やわらかく交差していく。
キッチンは、そんな循環の起点となる空間です。
外庭に茂る緑は、ふと視線を向けたときにそっと揺れ、やわらかく気持ちを解いてくれる。
ロの字にめぐる構成と、視線が巡る回廊、そして内に開かれた中庭へと、自然と意識が導かれていく。
そんな視線と空間のめぐりが豊かな暮らしをそっと支えています。