プロの住宅レシピ 遊び心と安らぎが響き合う──芝生屋根の建築家住宅

納谷 新
高低差のある街並みに建つこの住まいは、建築家ご自身が家族4人と犬と暮らすために建てられた自邸です。
描き溜めていたスケッチを実現するために土地探しに3年を費やし、実験的な要素を盛り込みながら構想を重ねられました。
大事なコンセプトは「自然素材の質感をそのまま活かしながら、設計によって快適性や機能性を豊かに引き出し、同時に多様な居場所を生み出す住まい」。
芝生をのせた屋根や地中に沈むような構造は、そんな思いから生まれています。
玄関から90センチ降りて室内に入ると土に包まれた安定した環境が広がります。土中は一年を通して温度が一定に保たれるため、設備機器に頼らず快適性を実現できる仕組みです。
外壁には焼杉とモルタルを用い、着色せず素材そのものの質感を前面に。内部も全面モルタル仕上げとし、光の角度や季節の変化を素直に受け止める空間をつくり出しています。
南面に開かれた吹抜リビングは、冬は奥まで光が届き夏は深い庇が日差しを遮る計算がなされています。さらに造作のコンクリートキッチンや合板仕上げの2階空間など、素材と空間の工夫が随所に盛り込まれています。
屋根には軽量土壌「アクアソイル」による芝生を敷設。
断熱性能を高めつつ、腰掛けたり遊んだりできる新しい居場所をもたらします。
素材と設計が織りなす心地よさの中で、家族も来客も自然と子供心にかえれる場所──日常が遊びと安らぎに満ちる住まいです。
photo:吉田 誠