プロの住宅レシピ 3DKをつなぎ直す。54㎡のマンションで大らかに暮らすリノベーション

54㎡の3DKマンション。両側は壁に囲まれ、南北の窓とバルコニー以外には大きな開口がない、一般的な間取りのマンションリノベーションです。
自邸ではありますが、将来の運用も見越して、極端なパーソナライズは控え、誰でも普遍的に住まえる空間にしようと考えました。
既存の間取りでは壁の影響で空気の流れが遮断されていました。そこで、空間をひとつにつなげて風の通り道を確保。居住空間はリビング・寝室・最小限の書斎兼子ども部屋とし、3つの主要な居室の間にダイニングが挟まれるという以前の構成は大きく変えず、そのつながり方を見直しました。
まず、「食事する場」「働く場(書斎)」「休む場(リビング)」と機能を明確化し、これらをダイニングを中心に構成。キッチンはL字型とすることでダイニングとの一体感を高めました。
リビングは少し距離を持たせることで、住まいの奥へ進むにつれ「公から私へ」「動から静へ」と緩やかに移り変わるデザインとしています。いまや一般化した在宅ワークのように、これから生まれる新しい生活像に対しては、ダイニングとリビングをある程度分けておいた方が柔軟に対応できると考えました。
奥行き1mを確保した造作キッチンは、単なる作業場ではなく、家族や友人が集まり、多用途に使える余白を残した設計としました。収納や作業スペースをダイニング側・リビング側の両方から使えるデザインで、生活の中心となります。造作にすることでコストも調整。引き出し収納は最小限にとどめ、市販のかごやケースを自由に組み合わせて使えるようにすることで、ライフスタイルの変化にも柔軟に対応できるようにしました。
内装デザインは「隠す」よりも「見せる」ことの大らかさを大切にしました。
素材は合板を基本としながらも、天井のルーバーや壁の仕上げにピッチの違いをつけたり、タイルやコンクリートなど異素材を組み合わせたりすることで、雑貨や小物が無造作に置かれても自然と空間に馴染みます。さらに、家具や建具と壁仕上げのトーンを揃え、雑多な印象を抑えながら自由度の高い住まい方を実現しました。
特に共働きや子育て世帯にとっては、すべてを隠して整えるような前提はハードルが高く、暮らしの気配をそのまま受け入れられる空間の方が心地よく住まえるのではないでしょうか。