プロの住宅レシピ 光と静けさを設計する──アール壁と小さな図書館の家
青山 茂生・隅谷 維子
東京都内に建つ、40代のご夫婦とお子さんが暮らす住まい。
ご夫婦の希望は天井の高い1階リビングと、家族それぞれが心地よく過ごせる小空間。コロナ禍を経て働き方が変化したことから、在宅勤務ができる小さな個室を1階に設けました。
また、2階廊下の中央にはベンチを配し、本棚を造作した“小さな図書館”を計画。本をたくさん所有するご夫婦にとって、この場所は生活のリズムをつなぐ中間領域でもあります。
建物は、厳しい高度斜線の制約を読み解きながら、複数の高さのボリュームを組み合わせて構成。視線や光の抜けを意識し、吹き抜けを各所に配置しています。
階段の突き当たりやキッチン上部の吹き抜けからは光が柔らかく降り注ぎ、外部の視線を遮りながらも室内に明るさを届けます。2階浴室の窓も室内の吹き抜けに面しており、外に開かずとも空間の奥行きを感じられる仕掛けです。
仕上げは経年変化に耐え得る素材を選び、床は大判タイル、天井と壁はジョリパッド、建具はナラ材。さらに外壁と同じ杉板を内部にも用いることで、屋内外の素材が緩やかに呼応します。塗装はすべてグレー寄りのトーンで統一し、異素材が静かに溶け合う空気感を生んでいます。
1階の2つのアール壁はこの家の象徴的な要素。天井の高さや機能の異なる空間を緩やかに導くことで、家族の動線を包み込むように繋げています。
光が落ち、素材が呼吸し、家族の時間がゆるやかに流れる。機能ではなく感覚で整えられたこの家は、日々の暮らしの中で静かに成熟していく余白のある住まいです。