プロの住宅レシピ 時を重ねる住まい──建築家の意匠を継ぐ改修
神奈川県鎌倉市・材木座。歴史ある住宅街に建つこの住まいは、著名な建築家の山田初江先生が手がけた家を、家族の新しい暮らしに合わせて丁寧に受け継いだリノベーションです。
長く地域に根ざしてきた家を壊さず、「山田先生の設計をそのまま未来に繋げたい」という思いが家づくりの出発点となりました。
目指したのは、歴史あるデザインを尊重しながら、現代の生活に必要な明るさと機能を整えること。山田先生の間取りを大きく変えずに、トップライトの追加や仕上げの更新によって光を調整しています。また、鎌倉市の耐震補強にも対応しつつ、限られた予算の中で生活動線を見直す計画が取られました。
特徴的なのが“藍”をテーマとした素材選びです。キッチンや壁面に藍の色を取り入れ、母屋の障子には藍染の和紙を採用。2階寝室は深い青の空間に整え、対となる離れは落ち着いた紅色でまとめられています。
さらに海外経験の長い奥さまの嗜好を反映し仕事部屋はスパニッシュ調に。廊下やサブキッチンにはジェフリー・バワを思わせるラスティックな質感が重ねられました。
キッチンはこの家の大きな改修点のひとつ。かつてボイラー室として使われていた奥のスペースを含め、料理好きのご主人のために広く再構成し1cm単位で調整する造作家具で使いやすさを追求しています。
改修の中心となったキッチンは、かつてボイラー室だった奥のスペースを含めて全面的に再構成。既製品は使わず、1cm単位で調整する造作家具で使いやすさを追求しています。
古くなったコルク床はフローリングへ更新。断熱の全面改修が難しいため、既存の床暖房にエネファームを接続して快適性を補完しています。石油からガスへ変更することで環境負荷を軽減する計画です。そして当時のままの薪ストーブはこの家の時間の層を象徴する存在として残っています。
離れは大正時代の伝統工法による建物で、家族の暮らしに合わせて先に改修。倉庫だった部分に風呂・洗面・トイレを新たに設け生活の基盤を整えています。
残すべきものを見極めながら育てるように手を入れた今回のリノベーション。長い時間が蓄積した静かな佇まいと新しい暮らしの息づかいが、穏やかにひとつに溶け合っています。