プロの住宅レシピ 白い箱の聖域──地中海の情緒と光をまとうを住まい

吉デザイン設計事務所
吉川 直行

吹き抜け越しに光を導く断面構成。中庭と連続する白い空間は外部からの視線を遮りつつ内部で完結した開放性を得た中心空間。

天板からバックカウンターまでモールテックスで一体化。水平ラインを強調する窓と間接照明が、石質のマットなテクスチャーを浮かび上がらせる。アクセントとなる海外照明が奥行きを加える。

洗面・浴室・WICを一直線に結ぶ生活動線。水回り全体をモールテックスで統一し、質感の連続で空間のノイズを削ぎ落とす。ポイントで使用している黒色が構成を引き締め、ホテルライクな佇まいに。

4畳半の浴室は中庭へ抜ける設計。外部の植栽と間接照明が水面に柔らかく反射し、外部へ滲むような光環境をつくる。海外製の浴槽が静的で彫刻的な趣を演出。

参道に向けて開口を抑えた白いスクエアのボリューム。地中海建築を思わせる白い壁で閉じた外観が内部のパティオへ光と視線を集約し、建物全体に聖域性を宿す構成となっている。

茨城県日立市の海を望む地に建つ「Sanctuary House」は、30代のご夫婦と2人の子どもが暮らすための住まい。
奥様の実家に隣接する土地で、子どもが20歳になるまで家族の時間を重ね、その後は別荘のように静かに使い続けたい──そんな長い時間軸を前提に計画が始まりました。

奥様は東京勤務ながら完全リモート、ご主人は出張の多い働き方。だからこそ“家そのもの”が精神的な拠点となる安心感が求められました。

敷地は神社の参道に寄り添う立地。完成後、神主の方から「朝の光で白い壁が美しく輝く」という話を聞き、この外観が土地の物語と自然に重なっていたことを知ったといいます。提案したのは、白いスクエアの抽象的なフォルム。建築家ご自身がイタリアに住んでいた経験から地中海建築への親和性があり、その美意識にお施主さんも共感し採用が決まりました。

構成はコの字型。外部に対しては強く閉じ、中庭のパティオに向かってだけ開いています。参道側には1階に窓を設けず、視線が抜けるのは2階の大きなフィックス窓のみ。階段を上がるとガラス手すりごしに遠くの海が見え、外部環境を「静かな借景」として生活へ取り込む仕組みです。

中庭側は周囲のアパートや歩行者の視線を完全に遮断できるよう壁を立ち上げ、内部にだけ光と風がめぐる構成です。

内部の中心となる吹き抜けリビングは、中庭の壁の高さを読み込み、十分に採光が落ちるように断面を調整。キッチン天板からバックカウンター、ダイニングテーブル、AVボードまで白いモールテックスで統一し、空間を貫く一体感を生み出しています。

照明器具や壁紙、タイルは奥様が選んだ海外製で、感性が自然に響き合い、打ち合わせが「趣味の共有」のように楽しく進んだそうです。

特徴的なのが4畳半の浴室。海外製の浴槽とモールテックスの壁天井を用い、中庭へそのままつながるように設計。間接照明が柔らかな陰影をつくり、イタリアやスペインの浴室空間を想起させる静かな空気が漂います。

家族の気配を受け止めながらも、外部とは一線を引く白い聖域。日々の営みを守り、時が経っても変わらず静かな場所であり続ける──その姿こそ、この家が目指した暮らしのイメージです。

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