プロの住宅レシピ 「寄木壁」で緩やかにつながる住宅
門間 香奈子・古川 晋也
長屋跡地に建つ住宅。
長屋の1区画の住宅としてできること。そしてお施主様の希望である「生活感を感じない住み方」。この2つの要素を大切に設計しています。
長屋の構造を読み解く中で、耐力壁が短辺方向に並ぶ特徴を抽出し、それを生かして寄木壁で空間を再構成しました。9cm角の杉材を束ね、一枚の板とする「寄木壁」は、東大寺の大仏殿などにある寄木柱をヒントに名付けました。天井まである6mの耐力壁は構造体としての強さに加え、経年変化を楽しめる耐震壁として空間を構成する大切な要素になっています。
この住宅では寄木壁以外の間仕切り壁を持たず、全空間がリビングのように一続きとなっています。空間の広がりと寄木壁の影をうまく使い分けることで、繋がりながらも、それぞれの領域が作れるようメリハリを持たせました。また、空間全体をグレー調で統一することで、寄木壁が際立つデザインとなっています。
住宅の中心に位置するインナーテラスでは、トップライトの光を効果的に取り入れています。天井からの光がエキスパンドメタルの階段をキラキラと輝やかせ、空間全体に明るさと奥行きを与えます。
全体がリビングのような住宅は、寄木壁によって空間の使い分けとメリハリがうまれ、長屋の歴史と特徴を生かした理想的な生活を実現しました。
Photo : 笹倉洋平