■ 練馬の家
練馬の家 / 路地のスリット
この建築は、東京練馬区にある34坪ほどの路地状敷地に建つ家族4人のための住宅である。
住み手の更新に伴う宅地の細分化が進む東京の住宅密集地では、豊かな住環境を求めることがとても困難な宅地が増えている。その代表例ともいえるのが路地状敷地である。路地状敷地は、人が行き交う街路からは奥まった静かな環境だが、街との関係は断たれる。さらに、四方に余白なく隣家が迫り、採光とプライバシーの両立がとても難しい。
そのような敷地条件でも、安心して明るく伸びやかに暮らすことができる住宅のあり方を、私たちは考えた。
この住宅は、敷地の路地部を除いた整形部いっぱいに外壁を構え、その内側に2つのスリットを設けた建築である。1つは南側の路地部に連なるように東西を貫き、隣家との緩衝帯となる屋根のない外スリット。もう1つは整形部中央を南北に貫き、視覚に天井を感じないスケールで屋根まで吹き抜けた内スリット。路地状敷地という困難な状況を打開するため、街路から敷地内路地を介し、建築内に外スリット、内スリットという形で路地を引き込む構成とした。
外スリットは明度が高く、明るさを届ける白色で内壁のように仕上げ、内スリットは明度を抑え、安らぎを与える灰色で外壁のように仕上げた。そして、その内外のスリットを屋根まで吹き抜けた大きな開口がつなぐことで、視覚作用による外の内部化、内の外部化を図った。外の内部化は安心と広がりを、内の外部化は街路のような空間性をつくる。
隣家に面したスリットに、住宅密集地に対するフィルターとして、半透明の開口を設けた。住宅密集地のすべてを閉ざすのではなく、その景色と気配、そして建築のもつ空間領域に霞をかけ、街へのつながりと広がりを与える。
スリットは外を前庭、内を居間とし、用途を決めない自由な場とした。階段や2階の動線もただの動線ではなく、自由な場として、内スリットに連関する。階段は内スリットにその巾すべてをつかう街路階段のように、2階の動線は内スリットの吹き抜けを横断する歩道橋のように計画した。動線も座る、寝転ぶ、遊ぶ、集まる、学ぶ、飾るなど自由な場となる。
台所や寝室、納戸など用途が決まった諸室は、必要最小限の大きさとし、2層吹き抜けた内スリットの両側に接するように計画した。スリットに設けた開口が、光や風、家族の気配や雰囲気、視線を各所へ伝え、空間に広がりを与える。また、諸室の内装は構造材や合板の現しとし、間取りの更新や造作家具の追加、仕上げの変更など、将来の家族の成長に合わせ、対応できるように余白のあるものとした。
写真撮影 松井進