■ 炙り丸太のコロネード
この建築は、ある大工との出会いから始まった。
昔ながらの腕利きの棟梁で、頭の中のディテールと経験知で家を建てられると言う。木材の加工なら何でもできると言い切るその言葉を信じて、あえて施工の難しい天然の丸太を用いて設計を進める事にした。
丸い柱が並ぶコロネード(列柱廊形式)には、人を惹きつける魅力がある。そこには、規則的に配置された柱・梁・桁が屋根を支える構造美と、シークエンシャルな空間にリズムを与える丸柱の造形美が併存している。古代ギリシャ建築の時代から、人々が集い、市が開かれ、文化活動が営まれてきたこの建築形式を再解釈し、人のふるまいの拠り所となる空間を創ろうと考えた。
この建物は、三重県津市の中心部にある。幼少期から地元で暮らしてきた施主は、時に親戚や友人を招きながら、ゆっくりと自然体で棲まうことを望んだ。そこで、前面道路側には4台分の駐車スペースを兼ねた大きなセットバックを設け、プライバシーの守られた中庭を囲むように諸室を配置した。内周と外周に並ぶ丸太の列柱が支える内勾配のすり鉢状の屋根は、中庭に自然を集める環境装置として機能する。晴れた日は陽の光が築山を照らし、雨上がりには軒先から落ちる雫が水盤の水面を揺らす。屋根を支える放射状の登り梁が中庭へと視線を導き、時間や季節の移ろいを常に身近に感じることのできる家である。
北山杉の天然丸太には、甘皮を剥いた後に表面を火で炙り、やすりをかけて余分な炭を落とし、水洗いしてからクリア塗装をかける、という手間をかけた加工を施している。この操作には、表面を炭化させることで日射による変色や風化から木を守る機能的な役割に加え、自然素材ならではの木目や凹凸、色むらなどを意匠として際立たせる狙いもある。元々は華美な装飾が施された石柱で構成されるコロネードであるが、膨大な手間と時間がかけられた天然素材の丸太には、石の重厚感や荘厳な雰囲気に勝るとも劣らない質感が宿っている。更に、中庭に出る際に手が触れやすい部分の柱に巻かれたラタンや、丸太同士が「ひかりつけ」で取り合う端部の納まりなどを見ても、素材に対して注ぎ込まれたクラフトマンシップを感じ取れるだろう。また、外構の庇や玄関の飾り棚、ライブラリーの本棚など、随所に径の細い海布丸太も用いることで、建築的な要素と身体を近づける工夫も凝らしている。
伝統的な技法で素材の美しさを引き出した日本建築版のコロネード。丸太を基点に緩やかな秩序が生まれる空間の中で、自然と共に生活が営まれていく。
PHOTO: Koji Fujii / TOREAL