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境原建築設計事務所

境原桃太と境原彩香による、三重県を拠点とする一級建築士事務所です。
土地と人間を深く読み取り実体化させる。人の生を象徴するような建築をつくりたい。
調和し、宿る建築。


住所: 三重県桑名市

TEL : 059-487-7108
E-mail :mail@sakaibara.com
URL : https://www.sakaibara.com/

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■ 「間」の家

名古屋市の郊外にゆとりを持って区画された古い住宅地の一画。近隣と比べて半分程度(約13m×11m)の敷地に夫婦と2人の子どものための住まいを計画する。複数台の駐車スペースを求められることが多い郊外においては十分な広さといえない。水捌けが良くないせいか湿っぽく、北側道路で三方には隣家が迫りこちらに影を落としている。幼少期をここで過ごした施主は家の中が薄暗かったことを記憶しているという。

 

夫婦は家の広さに固執しておらず、それぞれが心地よく過ごせる居場所を求めた。地面を眺めて暮らしたいという共通点はあったが、蓋を開けてみれば2人の気質は両極端なものだった。アウトドアが趣味で外部を親密に感じられる場所を好む夫。一方で、窓が少なく壁に囲まれたちいさな場所が落ち着く妻。仕事柄家族と生活リズムが異なる夫は、気兼ねなく過ごせる居場所も望んだ。

 

広くて開放的な一体空間が相応しいとは思えないし、いくら経済的とはいえこの限られた敷地条件下でむやみに四角い箱を置くと、陰鬱とした隙間を残して光や空気の流れを遮ってしまう。土地の豊かさを損ねないよう、必要諸室を整理して建築のボリュームを抑え、散りばめられた手掛かりを丁寧に扱いながら豊かな余白を残すことで、夫婦の不揃いな要望を一括りに受容できてしまいそうな大らかな場所を目指したいと考えた。

 

敷地のポジティブな部分を拾い集めていくことを意識して計画を進めた。観察していると、家々に囲まれていても日照時間が長い箇所はある。隣家の外壁は午後の光を柔らかく反射する。旗竿敷地の竿(路地)は約束された空地と捉えることができる。広い庭と一部2階建ての近隣が多いため、視線が抜ける部分もあるし、2階レベルで捉えるとより開放性は高い。こちらを向く隣家の裏側は窓が少なく、それほどプライバシーが損なわれていない。囲まれたちいさな敷地は路地裏の小広場のような安堵感が漂う。

 

こうした恩恵が期待できる敷地東側を保存するために、安らぐ居場所と水廻り等の機能をコンパクトにまとめた総2階の母屋をできるかぎり西側に寄せた。そのうえで、母屋から余白に向かって手を伸ばすように、三叉路状に交差する渡殿(建物間を結ぶ廊下)のような空間を挿入した。特定の用途に縛られないニュートラルな空間とする意図から、これを私たちは「間(ま)」と呼んでいる。

 

「間」からは空へと視線が抜け、光や風をつかまえて奥へと誘う。母屋との交差部をルーバー天井(2階床)とすることで、天窓や側窓から注ぐ光が1階まで落ちる。環境的な恩恵だけでなく、「間」は空間の体験的な奥行きをうみだし、知覚的な閾として外部に働きかける。それは日本の伝統家屋にみられる縁側や土間といった中間領域にも通ずるが、縁側ほど居室に寄り添った場ではないし、土間ほど外部性は強くない。居室のように秘匿性が高いわけでもなく、離れと呼ぶほど隔離した場所でもない。内と外のあいだにうまれた不即不離の「ほどよい間合い」が、プライバシー性という住宅であるがゆえの強い縛りから解放された寛容さを、日々の暮らしに添えてくれることを期待した。

 

久しぶりに訪れると、壁に囲まれた場所が好きだと語っていた彼女が「間」を積極的に受け入れ、観葉植物を育てるという新たな趣味に目覚めて没頭していた。隣のおじさんと「間」越しに挨拶を交わし、庭にとどまらず隣の路地にまで奔放に回遊する子どもたちを見守ってくれている。ときには、庭から窓をノックして畑で穫れた野菜をお裾分けに来てくれることもあるそうだ。

 

Photo :  ToLoLo studio