プロの住宅レシピ 陰影から生まれる、自然体を追求したリビング
山田 誠一
「理由はよくわからないけど素敵」と人が感覚的にキャッチする魅力を現代的に解釈し、取り入れた住まいです。例えば、自然素材を大事にし、どう用いるかなど、丁寧にセオリーに沿って作ることがこの住まいのテーマのひとつになっています。
その一つが「明かり」の使い方です。照明器具は最小限に抑え、空間全体を一様に明るくするのではなく、意図的に暗がりを残し、必要な場所だけに柔らかな光を灯します。これにより、光がある場所に自然と人が集まり、空間には奥行きと落ち着きを生み出します。リビングでは高さの異なる場所を設けることで、実際の天井高以上に広がりを感じさせます。
暗さと影が織りなす陰影は、住まいに温かみを添え、帰ってきたときにほっと落ち着けるような空間にしてくれます。そして、リビングに接続するように設けた暖炉から、リビングの壁面に暖かな陰影が映り込み、ゆったりとした安心感と情緒が漂います。自然と家族が火に集まり、火を囲む時間が生まれます。
必要な明かりは確保しながらも、過剰になりすぎず意図的におしゃれ空間を演出するよりも、シンプルでいかに自然体な空間であるか、そのバランスを大切にしました。
光と影、そして火が持つ自然な温もりを活かし、現代的な感覚や要素を感じながらも、どこか懐かしく心地よい空間となっています。
Photo : 川辺 明伸