プロの住宅レシピ 「ほとり」でつなぐ、優しい住まい

中佐 昭夫
小さな私鉄の線路沿いのマンション。こちらの住まいのリノベーションでは、静かな住宅街ののんびりとした雰囲気と、クライアント様の優しいお人柄や雰囲気を住まいに反映しました。
線路が見える窓側と反対の廊下側に、それぞれ帯状の「ほとり」と呼ぶ中間領域を設けました。
中間領域では明確に区切らない「曖昧さ」が特徴で、曲線を使いながら、柔らかく緩やかな空間を作り出しています。
この住まいの「ほとり」は、土間・インナーバルコニー・自転車置き場など、室内外をつなぐ機能を持つとともに、収納や観葉植物置き場としても機能する緩衝帯となっています。
「ほとり」の床材は、タイルやカーペットを場所に応じて使い分けています。壁や天井は2つの色で仕上げました。線路側では窓の外に見える周辺環境からサンプリングしたレッドブラウンを。廊下側では、クライアント様が経営されているカフェから引用したモスグリーンを取り入れました。
住戸内は間仕切りを撤去し、ワンルームに変更。窓を開けると風が通り抜け、光や景色を最大限に楽しめます。一方、寝室には可動式の間仕切りを設けることで、必要なプライバシーを確保しています。「ほとり」の窓辺にはワークスペースを設け、電車が走るのんびりとした景色を眺めながら作業ができます。
私たちは、クライアント様のキャラクターを大切にし、それを住まいに反映したいと考えています。色使いや素材選びにおいても、「こうでなければ…」という固定観念を持たず、クライアント様との対話を通して、その人らしさに寄り添ったデザインを追求することで、住む人、訪れる人それぞれが充実した時間を過ごせる環境を提供したいと考えています。
Photo : 矢野紀行