プロの住宅レシピ ゆるりと集う、ピロティのような玄関

岡村 裕次
昔ながらのご近所付き合いが色濃く残る、都内の下町に建つ住まい。狭い路地が入り組むこの地域では、お祭りや日常のあいさつ、助け合いが今も自然と行われています。
そんな場所に生まれ育ち、長年親しんだ住まいの建て替えにあたり、新しい住まいが町に馴染み、人や町と自然とつながるように設計した玄関です。
この住まいは2世帯住宅で、2階部分に子世帯の玄関を設けています。 ただの出入り口ではなく、「地域とつながる空間」として、建物の一部をピロティのように開放し、町の人々と共に過ごせるプライベートとパブリックの中間スペースをつくりました。
その玄関スペースにはベンチを備え、お茶やバーベキューを楽しんだり、地域のお祭りの際には、近所の人たちが自然と集まります。さらに、「家に入るほどではないけれど、ちょっと腰をかけて話す」…そんな日常の中の心地よい距離感を大切にした場所でもあります。
適度な奥行きもあるため、前面道路からの視線を和らげるバッファーゾーンとしての役割も果たし、室内では外からの視線を気にせずに過ごせます。
また、このベンチは靴箱と一体となった設計で、室内側から靴を収納でき、常にすっきりとした玄関を保てます。
この町では、今も近隣で醤油を貸し借りする関係が当たり前のように残っています。そんな町の空気感を大切にし、家族だけの空間ではなく、地域とともにある暮らしを育む場として、新しい住まいの中でも町と人が自然につながる風景が受け継がれていくことを願っています。