プロの住宅レシピ 狭小住宅で明るく広く暮らす、ヒカリの住まい

住宅密集地に建つ、延べ床面積40㎡ほどの住まい。
夫婦ふたりの暮らしに合わせて設計したこの住まいは、「兼ねる」「透ける」「抜ける」をキーワードに、空間に広がりをもたせる工夫を施しました。
この住まいで大切にしたのは、「視線の抜け」です。
ワンルームに近い構成で、間口がわずか3メートルという限られた幅の中でも、奥行きや縦方向の視線を遮らないようにすることで、実際の面積以上の広がりが感じられます。また、スキップフロアやロフトによって上下方向にも視線が抜けるようにデザインしたことで、2階のリビングからキッチン、3階のロフトまで目線が自然に伸びていきます。
特に狭小住宅では、複数の機能を兼ねることで、暮らしに伸びやかさをプラスします。たとえば、階段は収納を兼ね、トイレと手洗い場を一体化させ、屋根とバルコニーの機能を兼ねる…などの工夫により、スペースの無駄をなくし、空間にゆとりを生み出しています。
また、この敷地は三方向を建物に囲まれた環境にあるため、光の取り入れ方にも工夫が必要でした。実際に設けられたサッシは、前面道路側とキッチン奥の開口部の2カ所のみ。それでも住まい全体が明るく感じられるのは、住まい中央に設けた吹き抜けと、ルーフバルコニーを設けたからです。建物の真ん中に上から光を落とすことで、家全体にやわらかな光が広がり、日中は照明がいらないほど。さらに、天井には木材を用い、段差の部分に間接照明を仕込むことで、直接光源が見えず、まぶしさを感じないようにも配慮しています。夜は、照明の光がグラデーションで天井を彩ります。
限られた空間で、より豊かに暮らすために。シンプルでありながら、工夫が詰まった住まいです。
Photo : 多田ユウコ/多田ユウコ写真事務所