プロの住宅レシピ 声が響き、記憶がめぐる──吹き抜けと光が繋ぐ家族の暮らし

茂木 哲
埼玉県川口市の広い敷地の一角に建てられたのは、ご夫婦と2人のお子さんが暮らす木造2階建ての住宅。
「吹き抜けがほしい」「家族の気配を感じられる家」「開放感と一体感」──そんな思いに寄り添いながら、内と外の環境と調和するようにこの住まいは静かに佇んでいます。
中心には南からたっぷりと光を取り込む大きな吹き抜け。1階と2階がゆるやかにつながり、声や光が自然に行き交う環境が日々の暮らしに穏やかな広がりをもたらします。
子どもたちの声が家中に響き渡るような朗らかで伸びやかな住環境です。
大開口から差し込む陽射しに対しては、遮光のためのロールスクリーンやカーテンを巧みに仕込みながら、居心地のよい光環境を調整できる工夫も。住まい全体を「家族の居場所」として捉えたやさしい設計思想が細部にまで貫かれています。
また、キッチンは子どもと一緒に料理をしたいという思いに応えるオープンな設計に。お施主さんの希望で冷蔵庫や電子レンジ、パントリーなどの家電はすっきりと隠されており、生活感をそっと包み込みながら親子の時間が育まれるあたたかな場所となっています。
「人工的すぎず、マットでやさしい質感のものを」──そんな素材感を大切にしていると自然と趣味や感覚の近い方との出会いが重なります。
一つひとつの選択に“手足に馴染む感触”を優先する意識が、空間づくりの軸となって住まいの輪郭をそっとかたちづくっていきます。
自然素材がもたらす柔らかな質感、光に満ちた空間の広がり、そして家族の会話が自然と生まれるような場面。そうした日常の物語が住まい全体を優しく包み込んでいます。
趣味や暮らしの積み重ねが静かに息づく、等身大で美しい住まいです。
Photo:山内紀人、茂木哲