プロの住宅レシピ 自然を取り入れ自由に暮らす。老後を見据えた団地リノベ

1970年代に建てられた団地の一室。
北側はカビがひどく、湿気のにおいがこもっていました。また、断熱性能も不十分で、コンクリートの外壁や床から外気の温度がダイレクトに伝わってくる部屋でした。
今回のリノベーションにあたっては、大きく3つの希望がありました。
ひとつは、家で仕事をしたり、地域の人たちが集まれるような、使い方を限定しないフレキシブルな空間づくり。ふたつめは、冷暖房に頼りすぎず、できるだけ自然を感じながら心地よく暮らせる住環境を整えること。そして最後に、老後の暮らしを見据え、無理なく快適に暮らし続けられる住まいにすることでした。
フレキシブルな空間にするため、壁を取り払ったワンルーム空間とし、間仕切りの代わりに、簡単に移動・調整可能な棚やカーテンでゆるやかに空間を仕切る設計としました。
本棚は釘やビスで固定せず、天井と床に突っ張るだけの構造で、誰でも移動や配置換えができます。カーテンも同様に、ワイヤーをねじ込むだけで簡単に着脱でき、暮らしの変化に合わせて柔軟に空間をつくり変えていけます。奥行き約30センチの棚は、単体で使えば本棚や食器棚として、前後に2つ並べればクローゼットとしても使用可能。暮らしに応じて柔軟に使えるようにデザインされています。
心地よい環境を整えるため、断熱性能にも力を入れました。
壁と天井には、高断熱のネオマフォームという断熱材を施工。外壁から約90センチの範囲まで巻き込むように張ることで、外から伝わるコンクリート熱を抑えます。さらに、一階の住戸ということも踏まえて、床全面にも断熱材を敷き詰め、水を温めて床下を温かくする蓄熱層を採用。従来の床暖房とは異なり、30℃前後の低温の温水を循環させるため、低温やけどの心配もなく、高齢者にも安心です。
夏は風通しが良く、壁のない住まいに風が気持ちよく抜けていきます。窓の外に植えた植物が水分を蒸発させ、気温を下げる蒸散作用によって、冷やされた空気が室内に取り込まれ、冷房いらずの快適さが生まれます。
団地という制限がある中でも、自然を取り入れた優しい住環境に整えたことで、年齢を重ねても自分らしく暮らし続ける住まいとなりました。