プロの住宅レシピ 深呼吸する住まい──緑とつながるLDK

石上 芳弘
愛媛県松山市の郊外、奥に田園風景が広がり、夏には蛙の鳴き声が響くような静けさに包まれた土地に、4人家族の住む住宅が佇んでいます。
多忙な日々を送るお施主さんが求めたのは、どこかで深呼吸できるような“癒しの住まい”でした。
以前はリゾートホテルで過ごすことでリフレッシュを図っていたそうですが、この住宅に暮らし始めてからは、「すぐに家に帰りたくなるようになった」と話します。
住宅計画で最も重視したのは、リビングの開放性と“緑に囲まれる感覚”。
建物を三つの箱に分けて配置し、その間に雑木の庭を育てる構成としました。タイルの床と自然素材の天井が、まるで庭と地続きのような開放感を生み出しています。
ソファを置かず、椅子とテーブルだけで過ごす空間には、風や光、草木の気配がそっと入り込む。
まるで屋外と屋内の境界が消えたような、柔らかな距離感がここにあります。
青い堀床のセカンドリビングは、視線が下がることで包まれ感が増し、より深くくつろげる空間に。
お施主さんの夢だったヘリンボーンの床から、見せない収納、照明の明るさの最小化など、細部にも“癒し”への意識が貫かれています。
つい居座ってしまうような居心地の良いリビングと開かれたダイニング、そして雑木を育てる庭が溶け合うように構成された空間。すべてが“緑の中に暮らす”という感覚を、日常の中にそっと根づかせてくれます。