プロの住宅レシピ 白がひらく、古民家の陰影を縁どる窓辺

北村 拓也
滋賀県高島市、山奥の田舎に建つ合掌造の古民家を改修した別荘。
季節ごとに訪れるこの住まいでは、夏は避暑地としての静けさを楽しみ、冬は近くのスキー場を拠点に滞在することも想定されています。
内部は、田の字型に並んでいた畳の間を取り払い、大きなひと続きの広間へと再構成。
収納を兼ねた可動式のタンスの間仕切りは空間の可変性を担い、暮らしの場を自由に編み直せる仕掛けとして機能。
大広間は居場所の選び方によって姿を変え、大人数の滞在にも自然に応えます。
構造体は黒を重ね塗ることで古材の質感を整え、素材そのものがもつ時間の深みを活かしています。
窓辺を白木で設える手法には、枯山水の白砂のように光を受けて反射する庭の構成がヒントになっています。
反射した光が室内をやわらかく照らし、濃い陰影を宿す黒い構造体と静かに響き合う。
かつて閉ざされていた下屋空間もまた、光と風景に向かってひらかれていきます。
空間に静かに佇むのは一枚板から削り出されたテーブルと椅子。
お施主さんとのやりとりから生まれたこの家具には、知人の大工による確かな技が宿り、素材感と調和しながら構成の重心をやわらかく支えています。
キッチンからは、合掌造の梁組が視線の先に。古い建物の屋根裏は、温熱環境が厳しい。そこであえて距離を保ちつつ、ライトアップによって“鑑賞”する場として設計。空間に深みを与える構造の美しさが、日々の営みにそっと寄り添っているのです。
構造体そのものが意匠としても魅力であることも多いといいます。
この土地で重ねられてきた知恵や時間の層を、暮らしの風景として静かにひらき直す──そんな姿勢がこの家の隅々に宿っています。
Photo:新山源一郎