プロの住宅レシピ 「みんなの場所」と「静かな部屋」、二つの顔を持つ2階

田岡 博之
もともとの2階は、個室が並ぶ閉じた間取りで、やや暗い印象の空間でした。
今回のリノベーションでは、2階を大きく2つのエリアに分け、それぞれの役割を明確にしています。
ひとつは、階段を上がって手前のスペース。小屋裏を剥がして天井を高くし、屋根の形に沿うように外へと開放。さらに壁も取り払い、空間をつなげることで「みんなの場所」として使える多目的スペースにしました。家族はもちろん、来客も気軽に上がってこられる自由度の高い空間です。
もう一方の、奥まった和室をプライバシーを重視したベッドルームへと変更。襖や欄間などの建具は既存のまま残して象徴的な空間に。家全体の中で最も落ち着ける部屋です。
工事の際、天井裏を覗くと立派な小屋組みが現れ、「これを隠すのはもったいない」と意見が一致し、構造を見せるデザインを採用しました。隠れた部分にも以前の職人の方々の丁寧な仕事が見られ、住まいの価値を再発見するきっかけになりました。お施主様とも「こういうものこそ残したい」という思いが共有できたりと、既存の魅力を活かしながら新しい要素を加えるリノベーションの面白さを改めて感じる住まいとなりました。
今後は、子ども部屋の増築や本棚の追加など、家族の変化に合わせて進化していく予定です。「リノベーションに完成形はない」という考えから、暮らしや時代の変化に柔軟に対応できる素地が用意できたと思います。
Photo: 太田拓実