プロの住宅レシピ 削ぎ落としの先にある豊かさ──効率美が描く広がる暮らし
千葉県に建てられたのは夫婦と2人の子どものために計画された住宅。
「なんとなく家を建てたい」という思いから始まり、設計事務所を探し回るところから、約2年をかけて辿り着いてご依頼に。
限られた予算の中で、希望された機能と広さをどう両立させるか──そんな課題からこの家の構成が生まれました。
インナーガレージや広い玄関、小上がりの和室など、当初のご要望を足していくと面積は膨らみます。
そこで厳密には用途が違っていても空間を共有できる部分を丁寧に重ね合わせ「無駄をなくす」ことを、暮らしを豊かにする設計手法へと転換しました。
洗面スペースは人がいないときも廊下として機能する構成。使われない時間さえ無駄にしない発想が効率の美学として貫かれています。
そして玄関に隣接する小上がりの和室は、季節の行事にも寄り添う空間。
障子を開けると玄関から雛飾りが見えるように計画し、玄関にお雛様を飾りたい、小上がりの和室を設けたいという2つのご要望を同時に実現しています。
特に外観については、見積もりの段階から重要面を明確にし予算調整がしやすい構成を構築。
サイディングやタイルなど素材の選定にも、コストと構成の両立が意識されています。近隣からは美術館が建つのかと評されるほど端正ですが、実際は効率を極めた住宅だといいます。
特筆すべきは南面の大きな窓。2層吹き抜けのように見える大開口は上下階を分けながらも窓の位置を揃えることで垂直性を強調し、2階の床にあたる部分をサッシと同色のガルバリウムで仕上げることでひとまとまりの大きな面として見せています。
木やタイルの個性を際立たせつつも全体としては調和のとれた、端正でありながらダイナミックな立面を実現しています。
「デザインを選ぶと機能性の検討が後回しになる」と思われがちですが、この住宅は効率の中に豊かさを見出し、両方を犠牲にしない姿勢が貫かれているのです。
効率性を意匠に昇華することで機能とデザインの境界が消え、100㎡に満たない空間に思想と合理が重なり合う。
──削ぎ落とされたコンパクトな構成の中にこそ、生活の自由度と建築の美が共存しているのです。