プロの住宅レシピ 100年続く美しさを刻む住まい──塔屋と木組が導く静かな平屋
東京あきる野市。お子さんの独立と定年を機に、夫婦ふたりが余生を穏やかに過ごすために計画された平屋の住まい。
かつて2階建てだった家を取り壊し、「自然の力で快適に暮らせる家、伝統工法の美しさを宿す家」を求めて、お施主さんは長い時間をかけて探してたどり着いたご依頼。
ご要望の一つは設備に頼りすぎない自然な住まいであること。
そこで中央に塔屋を設け、上昇気流を生む煙突の仕組みを組み込み、夏でも自然の気圧差で熱気を逃がす計画としました。
まずは柱梁の組み方を「まずデザインとして考える」という思想が、この家全体の骨格を決定づけています。力の流れに沿って梁が放射状に伸び、その真ん中に塔屋を据える構造は、耐震的にも理に適うと同時に、木組みそのものが美しい造形として現れます。美しい木組みは力が自然に流れている証拠とも言えるそうです。
内部は日本家屋の水平性を大切にしながら、梁を低く抑えることで視線を落ち着かせ、そこから吹き抜けへと高さが抜けていきます。上に“傘”があるような安心感と、包まれるような籠もりが生まれています。
動線は塔屋を中心に回遊でき、玄関・リビング・水まわり・寝室が一筆書きで繋がっています。
奥様の希望でつくられた茶室は、ろうそく一本の明かりを想像させる本来の暗さを追求した空間。
照明を極限まで絞ることで暗闇そのものが質感を帯び、静けさ
素材へのこだわりもこの住まいの大きな魅力。天井には唐紙を用い、光琳波の文様と雲母のきらめきが、水と空の世界観をそっと天井に映しています。
玄関土間には渦巻きの洗い出しが施され、文化財級の意匠から着想を得た形状が、水の波紋を思わせる深い表情をつくっています。外壁の漆喰は石灰と麻スサ、つのまたを混ぜた手仕事。内壁の珪藻土も含め、職人たちの技量を尽くした素材がこの家の静けさを支えている。
「歴史の一本の線から外れず、100年後にも美しいと思われるものを選ぶ」。構造から意匠へ、意匠から暮らしへ。その流れが丁寧に繋がって生まれたこの家は、夫婦のこれからを静かに受け止める時間の器として佇んでいます。