プロの住宅レシピ 時を織りなす住まい──受け継ぐ技と地球時間で暮らす三浦の平屋
神奈川県三浦市にある建築家の住まい。かつて民家の写真集に心を揺さぶられ、「100年、200年後に古民家と呼ばれる家をつくりたい」という強い願いをもって家づくりを始められました。
設計で鍵となったのは、古民家がもつ美しいプロポーションと、寺院建築の技。外観は切妻屋根に破風板を合わせ、カーテンウォールにも使われる金属部材を組み込むという実験的な構成です。
木組とガラスを重ねて見せる意匠は、伝統工法と現代素材が響き合う佇まいをつくり、この家全体の精神性を象徴しています。
内部の構造はさらに大胆に。山中の岩山に分け入り、山師とともにipad片手に、1本ずつ選定した曲がりの強い松材を8本採用
それらを織物のように組み合わせ、江戸前期のお寺の御堂の天井裏にあった生き物のような梁組を再現しています。
削りにはチョウナやヤリガンナなど、平安期から受け継がれる道具を採用。16歳の若い職人が刻んだ跡がそのまま残ります。弁柄と柿渋、松煙を一から調合した深い赤の仕上げは、年月とともに落ち着きを増しやがて古材のように風合いを育てていきます。
間取りは茅葺き民家の田の字型を現代的に解釈し、大黒柱を中心とした大架構を成立。南側にはお寺の縁側を思わせる外廊下を設け、深い軒で直射日光を遮りつつ、床板の反射光を室内へ。
東側の光はリビングの奥まで差し込み、朝日と共に目覚める毎日を導いてくれます。冬は薪ストーブだけで家が芯から温まり、厚く入れた断熱が熱をやさしく保ちます。
海外で集めたアンティーク家具や雑多な調度品も、木の家の寛容さが受け止め、どこか多国籍で人情味のある空間をつくり出していることも魅力です。
世代を越えて受け継がれる技と、自然とともに生きる感覚。
その両方を抱きとめながら静かに人の暮らしが地球のリズムと重なっていくような時間がここに流れています。