プロの住宅レシピ 擁壁が生んだ、段差と角度で広がるスキップフロアの住まい
老朽化した擁壁の再構築という課題から、この住まいならではのスキップフロア空間が生まれました。
擁壁の上に単純に家を載せるのではなく、道路から階段、そして住宅へとゆるやかにつながる動線をつくることで、街に対しても開かれた住まいを実現。かつて擁壁に囲まれ見通しの悪かった道は明るさを取り戻し、街に溶け込みます。これらの追求の結果、必然的にスキップフロアでつながる住まいとなりました。
室内は6つのレベルで構成しています。
最下層のレベル1には前面道路と直接つながる土間空間を設け、外とつながるスペースに。レベル2は少し地下に潜るような落ち着いた場所で、窓をあえて小さく抑えることで、こもり感のあるプライベート空間に。造作の本棚で緩やかに区切ることで視線は閉じすぎず、階段越しに他の部屋の気配が伝わります。
住まいの中心に配置したレベル3は、将来の子ども部屋を想定した明るい空間で、南からの光が届く居心地のよい場所となっています。さらに上階の、レベル4と5は周囲の緑へと視線が抜ける高さに位置し、ダイニングキッチンとリビングが広がります。天井と窓の高さを揃えて連続させることで、二つの階に分かれながらも一体的な広がりを感じます。上に進むほど外からの視線を気にせず開放的に過ごせます。
室内には「兼用」と「要素を減らす」工夫で、限られた敷地を有効活用しました。
例えば、階段には手すりと同じパイプでコート掛けを設けたり、コンクリート壁のセパレーターの穴をフックとして活用できるようにするなど、視覚的なノイズにならないよう部材を増やさず用途を兼用させています。
また、レベル3から上階にかけては、壁と屋根に異なる角度を持たせ、二つの角度が交差するように設計。角度の違いが空間に広がりをもたらし、自然な動きが生まれます。大胆な吹き抜けを設けることが難しい場合でも、こうした角度のずれによって生まれる隙間が、ちょっとしたゆとりや余白となり、豊かさを与えてくれます。
Photo : 西川 公朗