プロの住宅レシピ 見晴らしの中で育つ暮らし──2階に広がる家族の場所
伊藤 康行
神奈川県港北区。夫婦と小さなお子さんが暮らすこの家は、かつて大きなアパートが建っていた角地を三分割した敷地に計画されました。
北と東に道路があり高低差のある地形で、横浜のランドマークタワーまで望めた見晴らしに強く惹かれ、「この景色を日常の一部にしたい」という思いから、お施主さんは2階にリビングを希望されました。
眺望の軸を活かすため、1階は子ども部屋2室と夫婦の寝室をコンパクトに配置。各個室が居心地よすぎると家族の団欒が薄れるため、あえて必要十分の広さに抑えています。
対して2階は大きなワンルーム空間とし、キッチン・ダイニング・リビングが視線でつながる構成に。
あえて色味を落として低さを演出し、吹き抜けのリビングとの対比で開放感を強調しています。
ラワン材特有のムラは工務店の方が赤みの強いものを厳選して揃え、空間の質を整えています。中央の柱は子どもへの安全性を考慮して丸く仕上げ、テレビ台を兼ねたL字の小上がりが空間をやわらかく繋げています。
大きな窓辺には30cmのカウンターベンチを設け、そのままウッドデッキへ高さを揃えて地続きに。2階で洗濯動線が完結する計画とも重なり外と内の距離が自然に縮みます。
照明はダウンライトを極力使わず壁付けを中心に配置。光源が目線を上下させないことで、横に広がる視線と落ち着いた夜の表情が得られます。
外観はグレーのジョリパッドに木の質感を合わせ、過度な装飾を避けた静かな佇まい。敷地の条件と生活の流れ、そして「見晴らしを暮らしの中心に」という思いを一つずつ丁寧に形にした住まいです。