プロの住宅レシピ 光がめぐる額縁窓のある住まい──景色と暮らしを溶け合わせるリノベーション
神奈川県横浜市にある高台に建つ眺望の良いマンションをご夫婦とお子様一人の三人家族のためにフルリノベーションした住まい。
もともと日当たりが非常に良い立地を活かし、「昼間は電気を使わずに過ごせる家にしたい」というお施主さんのご要望が設計の軸となりました。
リビングは既存のサッシ部分をアール型の額縁として再構成し、景色を一枚の風景画のように切り取る窓へと転換。
床はあえて小上がりを設けて段差を生み、視線の高さを揃えながら光の滞留をつくっている。ヘリンボーン張りの床材はお施主さんのこだわりで、空間を引き締めるデザイン性と落ち着きを両立。
これに対してキッチンは淡いグレーを選び、素材の強弱が過剰にならないようバランスを整えています。
TV台とベンチの高さを揃え、その延長線上に奥様のワークスペースを配置した点も特徴。PC作業中でもリビング全体が見渡せ、家族の気配を感じることができます。
キッチンでは、キッチンパネルと壁紙がぶつかる部分に見切り材を出さないよう細かな納まりまで詳細図で調整。こうした「線の整理」が空間の静けさを支えています。
リビングとご主人の書斎を隔てるアンティークガラスの壁は、壁を立てると影が強く落ちてしまうため、採光と目線のにじみを両立する素材として選ばれました。
ガラス棚の延長上にご主人のデスクを設け、光を遮らない方向性で構成することで、集中しやすくも閉じすぎないワークスペースとなっています。
寝室は「旅館のように落ち着く空間にしたい」というご要望から、シナ合板で天井と床を挟み込み、木に包まれるような構成。一段上がる小上がりや簀床のベッド下収納など、限られたスペースを最大限に活かす工夫が施されています。
窓の向こうの景色と室内の光と暮らしそのものが風景の一部へとゆるやかに溶み、空間には素材の密度と光の透け方が繊細に調律されていく。そうした意匠の積み重ねが日常の心地よさへと静かに結びつき、この住まいに繊細でやわらかい呼吸を与えています。