プロの住宅レシピ 階段plusの家──外部のような余白が暮らしを変える
埼玉県所沢市に建つ木造2階建ての住まいのリノベーションです。築浅ながら、夫婦と2mを超える大型犬、そしてフクロウと暮らすには、既存の階段や居間が窮屈でした。
特に「愛犬が無理なく昇り降りできる階段にしたい」というご要望は既存寸法の中では解決が難しく、階段部分を増築するという選択に至りました。
増築した階段は幅を広げ勾配を緩やかに設定。単なる機能改善ではなく、既存外壁をあえて室内側に現し、トップライトとベンチ、植物の居場所を設けることで外部のような空間として再構成しています。
1階でパン屋を営む施主が、夕方仕事を終えて2階へ上がる。その動線に気持ちを切り替える余白を挟み込む計画です。
居間に差し込まれたロフトは、吹き抜けの内側に浮かぶように配置されました。階段上部のトップライトからの光が回り込み、燦々と明るすぎない穏やかな採光をつくります。収納であり、気配を感じる居場所でもある中間領域です。
さらに旧洗面・浴室の位置を整理して小上がりを新設。排水条件を読み替えながら床レベルを操作し、下がったダイニングと段上のリビングを緩やかに分節しました。ドアを設けずとも、短い廊下や視線の段差が独立性を保ちます。
屋根勾配が低い位置から立ち上がる個室では、デッドスペースをヌックとして積極的に意味づけました。対照的にLDKは限りなく開く。閉じる場所と開く場所を明確に対比させることで、空間体験にリズムを与えています。
階段を“plus”するという小さな増築が、暮らしの質そのものを更新する。機能から始まった計画は、やがて住まい全体の空気を変える装置へと変わりました。ここでは移動する時間さえも、住まいの一部として丁寧にデザインされています。
Photo:湯原慎一郎