プロの住宅レシピ 曲面や斜めの壁が生む印象的なアプローチ
鈴木雅也
戸建てのような設えにして欲しいというのが、最初の建主からの要望でした。
それを受けて「マンションの中に家を建てる」という意識で設計を進め、周辺環境などの魅力を活かしながら、既存のマンションのイメージを脱却するプランを考えていくことになりました。
マンションリノベーションである以上どうしても変えられない箇所があります。それは、玄関、窓、パイプシャフトなどの位置です。広尾の家は間取りの構成上、玄関−広間・食堂に長い廊下が生まれてしまいます。そこで、玄関−広間・食堂の動線は、漆喰塗りの曲面の壁や斜めの壁などで構成することで、視線や体の動きを誘導し、光の陰影を美しく見せる計画としました。
結果的に玄関から居間・食堂を通して方向の切り替わった視線の先に広がる中庭までの印象的な風景を作り出し、ドラマチックなアプローチとなったと感じています。また、浴室に面する曲面の壁の中は既存のパイプシャフトの隠蔽空間として活用しています。
このように一般的なマンションの廊下では見られない大胆な造形が、広尾の家の持つ落ち着きと静けさを生む要素の一つとなっています。
PHOTO:鈴木研一