プロの住宅レシピ 金属と木が織りなす墨の家 ~経年変化を味わいにする壁~
安河内 健司・西岡 久実
施主はご自宅で書道教室をされている方です。いずれ墨のハネなど拭いても取りきれない汚れが壁についてしまうことが想像できました。
そこで墨の汚れさえも味わいとして採りこめる空間をつくることを考えました。
墨の濃淡を表現した壁面をつくる方法を模索するために、材料となるOSBボード(木片を接着剤で圧着した素材)に墨汁を塗ってみたり様々な方法を試しました。
そこで思い至ったのが、通常錆止めなどの目的で金属に使用するローバルの亜鉛メッキ材を塗布する手法でした。
これは陶芸家の友人から、陶器は様々な鉱物を含む土や釉薬が焼成されて化学変化をすることによって想像を越えた独特のテクスチャを生むという話を聞いたことがヒントになりました。
メッキ材に含まれる亜鉛も鉱物由来です。焼成することはありませんが、異素材と組み合わせることで新たな表情を見せてくれるだろうと考えました。
ローバル製品を木部に使用するのは初めての試みです。ローバルの担当者の方も興味を持って下さり、一緒に風合い良く仕上がる塗り方のコツなどを探りました。
試行錯誤の末に、亜鉛とOSBボードの質感が様々な時間帯の光によって様々な濃淡や表情を見せる『墨の家』が生まれました。
PHOTO: 堀内広治(1,4,5枚目)/group-scoop(2,3枚目)