■ 荻布の家
自然環境を取り込む小さな増築
富山県高岡市に建つ私たち夫婦と子供二人のための住宅である。
親世帯が住まう住宅敷地の一角に子世帯の居住部分を増築し、玄関や和室を共有する二世帯住宅の計画としている。
かつては住居が疎らに存在し田が大部分を占めていたこの地域も、次第に住宅が建ち並び、窮屈な環境に変わりつつある。この敷地も例外ではなく三方を住宅で囲まれているが、幸いにも東方向には抜けが得られ、晴れた日の遠方には富山県のシンボル立山連峰を望むことができる環境であった。近くには緑豊かな街区公園も位置している。この恵まれた自然環境を建築内部に取り込むとともに、雲天の多い北陸の気候の中でも光を十分に享受し、地域のシンボルや時と共に移ろう風景を巻き込んだ豊かな住まいをつくりたいと考えた。
建蔽率の制限から、敷地内に増築可能な建築面積が約15坪と限られている中での計画だったため、既存住宅の1階にある書斎を将来の子供室へと内部改修し、増築部分に残りの必要諸室を納めている。プランは1階に個室や水廻りを、2階にLDKを配置することで、1階にLDKを有する親世帯との適度な距離感を保ちつつ、東側に広がる眺望と採光を確保している。また、階高を極力抑え建物の最高高さを低く設定することで、周囲への圧迫感を和らげ、親世帯が住まう既存棟への採光もできる限り損なわないように配慮した。
内部構成としては、上階は外に開けた明るい空間、下階は内に閉じた落ち着きのある空間とし、ルーバー越しに優しい光が降り注ぐ仄暗い階段室がそれらの空間を馴染ませるように繋いでいる。また、上階のLDKはワンルームであるが、床や天井の仕上げと高さに変化を与えることでそれぞれの機能を柔らかく分節し、不均質さを内包した濃淡のある空間とした。
天井高を抑えた落ち着きのある1階個室群、開口から坪庭を眺めることができる浴室、洞窟のように閉じた廊下、上部から柔らかな光が落ちる階段室、遠景に視線が抜ける開放的な2階、緩やかに分節されるLDK、腰掛けることができる出窓、内外の中間領域としてのバルコニーなど、狭小空間の中でも動線上に多様な性質を持つ場を展開することで、空間全体に心理的な奥行きを与えている。
仕上げや気積に変化をつけながら窓辺空間を奥行方向へ段階的に拡張し、ワンルーム全体を窓辺空間の延長として計画することで、外部と緩やかに繋がる「窓辺の住まい」が実現した。
子供たちはその時々の気分や状況に応じて、世帯間を行き来しながらのびのびと生活している。
ダイニングの大窓より望む風景からは様々な気づきもあった。
広大な空を美しく染める朝焼け、雨上がりに艶やかな公園の緑、煌々と夜空に輝く満月、雪上を歩いた小動物の足跡など、住宅というファインダーを通して鮮やかに浮き出る世界を子供たちと一緒に楽しんでいる。
PHOTO: dot DUCK株式会社 内山昭一