■ 大きな桜の家
敷地は三鷹市井の頭。井の頭公園につながる閑静な住宅街にある。
はじめて現地を訪れた時、敷地の4分の1を覆うほどの樹齢90年を越す桜の大木の迫力に圧倒された。先代から受け継がれた庭には、シイ、エノキ、モミジ、タイサンボクなど多くの木々があり、その様は野趣に富んでいた。建主は、その環境を壊すことなく木立に埋もれるような住まいと小さな離れを望まれた。
まず住まい(母屋)について。庭の樹木を残すため、既存家屋の建っていた位置と同じく西側道路に寄せて南北に長く据えることにした。南と北に棟を2つ配し、その二つを階段ホールでつないだ。
北棟はパブリック棟。玄関、居間食堂厨房、来客用の和室を。南棟はプライベート棟で、主寝室と書斎、個室を設けた。各部屋を桜に向けて配し、恵まれた景色を美しく切り取れるよう木製建具や欄間を設えたほか、デッキ、バルコニーなどによって庭とのつながりを深める工夫を施した。
一方の離れは、北東の桜の下に配置。渡り廊下で母屋とつないだ。
この小さな建物は、学者であり多趣味なご主人の愉しみの場。蔵書量を考えるとある程度大きな面積が必要だったが、老木の根を傷めないために基礎は最小限の範囲(4帖半)にとどめ、深基礎の深さを利用して半地下の書庫を設けた。地上部分の床は一部跳ね出して6帖を確保した。豊かな樹木が間近に感じられ、大きくのばした庇の下のデッキも内外をつなぐ役割を担っている。桜の下を巡る渡り廊下には藤棚を設け、ご主人のお母様が大切にされていたという古いフジを移植した。今では葉が青々と茂り、道行く人の目にも優しい目隠しになっている。