■ house AO
ー「見立て」て生まれる、緩んだ関係性ー
築50年の木造2階建てのリノベーションです。既存の状態を見た時、融通の効かない「頑固」な印象で、それは真壁・畳・障子などの部分であるモノに起因していました。同時に、この「頑固な和室」という関係性をつくりたいがために、これらのモノが選択されていて、部分と関係が互いに「頑固な和室」であろうとしているように思えました。
今まで集め、選び、また造作してきた椅子やテーブルを置いて現代的に暮らしたい。しかし、工事予算が250万円であることを考えると、全てのしつらえを入れ替えるフルリノベーションという選択肢はありませんでした。そこで日本美学に見られる「見立て」の手法を用いて、和室の要素と共存し、現代的に住むことのできる「緩んだ和室」を目指しました。「見立て」とは、竹筒を花器に転用する、などに見られるような、あるものを別のものになぞらえることをいいます。
例えば部分である畳は、三六版の形状で/井草という素材で/若草色です。対してモダンな和室と呼ばれている部屋の畳は、井草ですが/正方形形状だったり/ブラックだったりします。畳に限らず、部分の形状・素材・色という3要素に着目して「見立て」ることで、和室と現代の要素が複合された緩んだ部分が生まれ、それらで空間を構成することで、「緩んだ和室」という関係性が生まれると考えました。この住宅のモノ達においては、格子の天井、和紙のない障子、ピンクの縁側などというように、3要素の中に少なくとも1つは和室の要素を別のものに置換することで「見立て」て、それ以外はそのまま活用しています。
また、“襖を開くと見通しが良い”、すなわち“室の間にモノがあるが見通せる”、という和室の空間分節の特徴を、“襖を借景窓の建具に“、”押入れの壁を筋交に“するなど、形状を読み替えることでより顕在化させました。そうすることで、複数の部分が同時に視野に入り、それぞれの部分による関係性自体も複合的になり、「緩んだ和室」がより顕著になると考えました。
「緩んだ和室」は「見立て」によって、和室というルーツをにわかに残しながらも、住人の可変的な暮らしを受け入れ、許容するおおらかな住処となります。
PHOTO: 森田大貴 Lenz Design