プロの住宅レシピ 大開口が切り取る自然景色──挑戦を暮らしに重ねる飯能の家

埼玉県飯能市の自然に囲まれた土地にご夫婦と愛犬が暮らす住まい。
都内から移住してきたお施主さんが「便利さよりも自然に挑戦できる環境」を求めて選んだ場所です。
ご主人はアイアンマンやマラソンなど耐久レースに挑む方で、川で泳ぎ、山を走る日常そのものがトレーニングに繋がる暮らしを描いています。
設計の出発点は、この土地の周辺環境にふさわしい建築をつくること。景観や植栽、地形、自然光を丁寧に読み解き、地形に沿った自然な配置が計画されました。樹木を残しながら谷の景色を切り取り、周囲の自然と人とのバランスを整えているのです。
内部は「光をとにかく取り込みたい」というご希望に応え、天井まで届く大開口を設計。
西日の影響を受けにくい敷地条件を生かし、カーテンを設けず透明感のある空間を実現しています。
天井高3mの伸びやかな室内は、外にいるかのような開放感を生み出しています。
室内は壁と天井は白の塗装、床材には愛犬への考慮でベージュのリノリウムを使用。
天然素材ならではの温かみと経年変化を楽しめる仕上がりで、壁と天井の白い塗装が光をやわらかく反射します。
リビングの薪ストーブはお施主さんの希望で導入され、計画を進めるうちに別荘のようにくつろげる雰囲気に仕上がりました。
階段の丸パイプ手すりや天井を照らす間接照明など、細部には光や風を通す工夫が施されています。
住まいの随所にはお施主さんの趣味を活かせるように、DIYで手を加える余白も残されています。
外壁の塗装には、雨や日射の影響で表面が部分的に不均一に変化することを避けるため、あらかじめグレー味を帯びた色を使用。
時間とともに銀化する自然な変化を想定しつつ、初期段階から統一感を保つ工夫がなされています。周辺の樹々や冬景色にも馴染む落ち着いた色合いが特徴です。
川のせせらぎや森の四季を眺めながら光と風を全身で感じる生活。時の移ろいとともに表情を変えるこの住まいは、自然とともに呼吸するような健やかな暮らしの拠点となっています。
Photo:西川公朗