プロの住宅レシピ スタイリッシュな素材感と遊び心──夫婦と愛猫のリノベーション空間

東京都世田谷区・太子堂にあるマンションの一室をリノベーションしたご夫婦と2匹の猫が暮らす住まい。
お施主さんは自ら数多くのショールームを巡るほど素材選びに注力されていたそうです。そういった嗜好や東欧のルーツを宿した感性も反映され、スタイリッシュで落ち着いた空間が生まれています。
設計の出発点は、3面採光の角部屋という条件を活かし光と風が抜ける道をつくること。
リビングは天井をコンクリート現しから一転して明るく塗装して抜けのある空間に。
壁仕上げには漆喰を顔料で調整した塗料を使用し、リビングはソープフィニッシュで艶を残した仕上げ、寝室はコテ塗りのまま完全なマットの質感と、部屋ごとに異なる雰囲気を演出する唯一の空間を実現しています。
床材には希少な虎斑模様を含むオーク柾目材を選定。美術館でも用いられるほどの力強い存在感をもちながら、日本での過ごし方に合わせて落ち着きを与えています。
リビングの壁面収納にはオーク材の特注棚を設置。見せる収納と隠す収納を組み合わせつつ、一段おきの開口を猫が通り抜け、上部のキャットウォークへと続く仕掛けを備えています。
浴室の大きな特徴は天然大理石「サンフローリエントローズ」を使用した洗面カウンターです。
モダンな空間には薄いタイプが主流ですが、お施主さんが石の存在感を前面に出したいと、あえて厚みを持たせた仕様を選択。話し合いを重ねて導き出されたこの決断が、空間全体に力強さと品格を与えています。
さらに特注のユニットバスに間接照明を組み込み、光が石肌を柔らかく照らすことで、日常にリゾートのような安らぎをもたらす場に。素材と光の調和が浴室を非日常的な体験の場へと昇華させています。
多彩な素材と緻密な設計が織りなすこの空間は、日常のなかに豊かな変化を生み出す。
素材の表情を感じながら、夫婦と愛猫がのびやかに暮らす様子が自然と浮かび上がってくる住まいです。
Photo:西川公朗