プロの住宅レシピ 暮らしをほどいて整える──使われ方から再構成したマンションリノベーション

一級建築士事務所 Bois設計室
藤田 敦子

ステンレス天板のキッチン越しに、リビングまで視線が抜ける構成。料理をしながら家族の気配を感じられる距離感が、この住まいの中心にある。手元の作業性と空間全体のつながりを両立させた設え。

木の質感を活かしたキッチンカウンターは、収納量を確保しながらも圧迫感を抑えたプロポーション。物量の多い暮らしを受け止めつつ、生活感が表に出過ぎないよう丁寧に整えられている。

タイルと木製キャビネットを組み合わせたキッチン背面。パン焼き器など日常的に使う道具を仕舞い込まず置ける計画で、家事の流れを止めない。使われ方から導かれた収納のかたちが表れている。

掃き出し窓をあえて塞ぎ、畳の小上がりと一体化した造作デスク。両脇の引き出しに収納を集約し、腰掛けて本を読んだり作業をしたりと多用途に使える、暮らしの余白となる場所。

洋裁が得意なお施主さんのために設えた糸巻きラックと収納。趣味の道具を美しく並べることで、作業のしやすさと空間の心地よさを両立。寝室を兼ねた、静かで個人的な居場所。

マンションの一部屋を改修したこの住まいは、母と娘、そして子ども2人が暮らす家族のために計画されました。 お施主さんは以前から他の工務店の話も聞いていたものの、担当が分かれる体制に不安があり、設計打ち合わせから現場管理を一人で向き合う姿勢に信頼を寄せてくださったそうです。

自然素材を多く扱い、女性の暮らしを理解してくれそうだと感じた点も決め手でした。 設計にあたって重ねられたのはとても細やかなヒアリング。キッチンではどんな料理をつくるのか、どんな道具を使っているのかを確認。

パン焼き器は「仕舞い込まず、使える場所に置きたい」という希望があり、食材ストックについても、廊下を挟んだ別室に置かれていた不便さを一度ほどきながら整理し直しています。 また誰が一番早く起き、出かけるまでに何をするのかといった一日の流れも、雑談の中から丁寧に汲み取っていくそうです。

以前は物量が多く収納が足りないように見えて、クローゼットや押入れには無駄な隙間がある状態。日々の生活に追われ整理が追いついていなかったお施主さんにとって今回の依頼は、家を変えるというより、暮らしそのものを相談する感覚に近かったといいます。

意匠として興味深いのは扉が二枚並ぶ間の壁に小さなニッチを設けて常夜灯を仕込んでいる点。照明器具として主張するのではなく、空間の奥に静かに残る明かりとして計画されています。夜間の安全性を確保しながら、季節のものや好きな小物を飾る場としても機能しています。

素材選びにも一貫した姿勢があります。木材は森林組合から直接仕入れ、生産者や製材所と直接やり取りをします。照明や洗面には作家の手仕事を取り入れ、量産品にはない揺らぎを住まいに残しています。

何十年も住み続けてきた住戸はバルコニーに面した窓が多かったのですが、実際に出入りに使われていたのは一箇所だけ。その「使われ方」に向き合い、思い出のソファを受け止めながら、畳の小上がりや洋裁スペースといった居場所を点在させています。

家の「使われ方」を起点に、空間は再構成し暮らしの輪郭を整え直した住まい。忙しい日常の中でも、無理なく自然体で過ごせる時間が静かに積み重なっていくのです。

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